『幻想と怪奇 6 夢境彷徨 種村季弘と夢想の文書館』(その1)

『幻想と怪奇 6』をちびちび読んでいる。

H・P・ラヴクラフト&アンナ・ヘレン・クロフツ南條竹則=訳「詩と神々」
 詩を愛する孤独な乙女マーシャはヘルメースに誘われ、ギリシアの神々の宮居で偉大な六人の詩人と会う――。
 ファンタジー。南條氏による示唆に富んだ解説が勉強になった。

種村季弘とドイツ夢幻譚
グスタフ・マイリンク種村季弘=訳「商務顧問官クーノ・ヒンリクセンと贖罪者ラララジュパット-ライ」
 公共福祉事業商会の社長・商務顧問官クーノ・ヒンリクセンは、インドの飢餓行者になる夢を見る――。
 未発表翻訳作品。思わずニヤリとなるラスト。

垂野創一郎=編訳「怪人タネムラを追って夢の世界へ」
「本の中のアンソロジー」という企画。
はじめに
パラケルスス「睡眠中の幻影や顕れについて」
 「隠秘哲学」第四章の全訳。
ビンゲンのヒルデガルド「眠りと夢について」
 『病因と治療』の一節。
H・C・アルトマン「緑の封印をしたお告げ(抄)」
 1~90までの数字にちなんだ夢のお告げを並べた掌編集。デタラメ、ナンセンス、ダーク、いろいろなタイプの(意味ねぇ~!)お告げばかりで面白い。完訳希望。
オスカル・A・H・シュミッツ「十八世紀の一夜」
 この時代(1768年)ではサン・ジェルマン伯爵と名乗っているアルタ-カッラーラに連れられ宴会に来た僕が見たものは――。
ゲオルク・ハイム「夢日記(抄)」
 夭折した詩人の夢日記。「はじめに」に書かれているように、彼の死に方を予言しているような夢も書かれていて痛ましい。死後に出版された短編集『モナ・リーザ泥棒』を読んでみたい。復刊または新訳してほしい。
パウル・シェーアバルト「新しい生――建築的黙示」
 老いて昼がない地球に十二人の首座天使が現れ、聖堂を高山に据え、リュックサックから宮殿を取り出す。そして死者がよみがえり――。
 新訳。

津村秀介『伊豆の死角』(講談社文庫)★★

『小説NON』に1988年~92年にかけて発表した十篇を収録した第4短編集(初刊=1993年2月)。
文庫版のあらすじに旅情ミステリー傑作集とあるが、事件小説集と言うのが正しい。
収録作の殆どに金・不倫・セックスが絡み、淡泊な文体で書かれているため続けて読むのが辛かった……(長編なら苦にならないのだが)。
集中ベストは「過去の殺人」。津村の事件小説の中でも珍しいタイプの作品。
重度の津村ファンだけが読めばいい短編集。

伊豆の死角 (講談社文庫)

伊豆の死角 (講談社文庫)

いただいた本

ご恵贈賜りました。ありがとうございます。
36.『幻想と怪奇 6 夢境彷徨 種村季弘と夢想の文書館』(新紀元社
 →幻想文学専門誌、第二期の第6巻。種村季弘の未発表翻訳作品をはじめ英国幻想文学大賞受賞作、冊中アンソロジーなどを収めた小さな夢想の文書館。

幻想と怪奇 6 夢境彷徨 種村季弘と夢想の文書館

幻想と怪奇 6 夢境彷徨 種村季弘と夢想の文書館

  • 発売日: 2021/05/21
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

松嶋智左『女副署長』(新潮文庫)★★★

昇任し、県内初の女性副署長として日見坂署に赴任した田添杏美警視。八月三日、台風直撃による出動に備え、多くの署員が前泊していた。災害対策本部が設置された最中、署の敷地内で地域課第二係係長・鈴木警部補の刺殺体が発見される。証拠は雨で流され、防犯カメラは何も捉えていなかったことから、犯人は署内に潜んでいる――つまり本官が犯人である可能性が高い。刑事課課長・花野警部と対立しながら、杏美は所轄の誇りを賭けて事件を解決しようと決意する――。
〈女副署長・田添杏美〉シリーズ第1作である本作は、台風直撃の一夜に起きる様々な事件に取り組む警察官の姿を描いた警察小説にして本格ミステリ
メインの事件である巨大な密室となった警察署及び敷地内で起きた警部補殺しは、関係者たちの内面や捜査の過程で浮かび上がってくる人間模様がとても上手く描かれていて面白く、杏美と花野がそれぞれの警察官としての矜持(どちらも間違っていないのがいい)を賭して対立する所が熱い。当然のことながら謎解きは申し分のない出来だ。
メインの事件以外では、母子を救出するエピソードが良く、この後に起きる事件(このエピソードも熱い!)の前振り的なものだが、本作の印象的なシーンの一つになっている。
今月末刊行の第2作(杏美は他の署に異動したらしい)が楽しみ。

女副署長 (新潮文庫)

女副署長 (新潮文庫)