『ジャーロ』No.42を拾い読み

ジャーロ』No.42(2011 SUMMER)を拾い読み。
千澤のり子「見えない流星群」
 合格発表の日に事故で重傷を負い、ゴールデンウィーク明けから学校に通えるようになったわたし(菅野美月)は、クラスメイトの高橋に勧誘され天文部に入部した。6月、おひつじ座流星群を観測するため、ひと月早く徹夜観測をすることに。佐川先輩が部室棟に変な光を見つけ、霧原先輩が天体望遠鏡で見てみると誰かが倒れているのを発見する――。叙述トリックの研究家らしく企みに満ちた小説であり、青春ミステリの秀作。高橋くんが良い奴すぎて泣けます。ラストがちょっと甘い気がするけど、あれがベストなのかな。是非ともシリーズ化してほしいですね。お薦め。
候補作を全部読んでいないが、「第11回本格ミステリ大賞」全選評をチェック。麻耶と米澤の長篇は文庫化したら買おう。〈評論・研究部門〉は相変わらず投票数が30に届かないですねぇ。
深水黎一郎「大癋見(おおべしみ)警部の事件簿」
 CHAPTER 1 国連施設での殺人:青山にある国連の関連施設で他殺死体が発見された。容疑者は八人に絞られたが――。大癋見警部の強烈なキャラは面白くて好きだが、使い古されたネタでがっかり。
 CHAPTER 2 クリスマスのアリバイ崩し:正月明けの四日にマンションの一室で他殺死体が発見された。解剖の結果、死亡日時はクリスマスと思われた。十一日には有力な容疑者に辿り着いていたが、彼にはアリバイがあった。海埜(うんの)警部補はアリバイ証人に三度目の聞き込みをする――。これもどこかで見たことのあるネタだが、CHAPTER1よりはマシ。
鯨統一郎「笑う女殺油地獄
 僕がバー〈森へ抜ける道〉に入ると、桜川東子(はるこ)さんの姿はなく、歌舞伎を観た帰りだという阪東いるかさんがいた。現在手がけているガソリンスタンド経営者夫人焼死事件の話をすると、いるかさんが歌舞伎『女殺油地獄』にそっくりだと指摘する――。桜川東子シリーズの第4シリーズがスタート。グリム童話・昔話・ギリシャ神話ときて、今度は歌舞伎。そういう見方もあるな、という「女殺油地獄」の解釈に膝を打つ。
片倉出雲「殺意は濁流に消えた」
 一年前に豊橋勘太郎を殺したと思われる浪人の首実検のため、勘太郎の妾だったお初、岡崎の市蔵、赤坂の小六、護衛医(まもりや)の栂尾玄鳥(とがのおげんちょう)の四人は、江戸から豊橋へ向かっていた。二度の襲撃を切り抜け嶋田宿に着いたが、大井川は川留めで足止めを余儀なくされる――。新シリーズなのかな? 笹沢左保の時代短篇を想起させるタイトルにニヤリ。伏線が見えみえなのと手垢のついたネタのため、展開が丸分かりなのが残念。もう少し枚数があればなぁ。
一田和樹「預り地蔵」
 深夜零時、ドアを叩いて訪れてきたのはお地蔵さんだった。そのお地蔵さんは忘れたい話を預かってくれる『預り地蔵』で、私が預けた話を返しにきたという――。怪談・奇談のオムニバスと思いきや、ラストでちょっと捻っていて意表を突かれた。