江戸川乱歩と横溝正史へのオマージュ作品、贋作(パスティーシュ)を集めた作品集。7篇収録。
今回は4篇のあらすじとメモ。残り3篇は後日。
「明智小五郎対金田一耕助」(初出=『明智小五郎対金田一耕助 名探偵博覧会II』)
昭和十二年。下関発東京行きの急行列車に乗車した名探偵明智小五郎は、大阪駅のホームで岩瀬商会の若い社員から新聞記事を受け取り、ある事件の記事に興味を引かれ途中下車する。アメリカから帰国し東京で事務所を開いた若き探偵金田一耕助は、岡山の果樹園主・久保銀造を訪ねる途中、大阪に寄る。道修町(どしょうまち)にある薬種商の鴇屋蛟龍堂(ときやこうりゅうどう)は元祖と本家に分かれ、争いあう間柄。本家の善池初恵に招かれた金田一は到着した晩、奇怪な殺人事件を目撃する――。
江戸川乱歩が生んだ名探偵明智小五郎と横溝正史が生んだ名探偵金田一耕助が夢の共演。原典の隙間を埋めた素晴らしい贋作で、新本格作家が書いた傑作贋作のひとつ。異なる世界観に整合性をつけた見事な考証、大胆なトリック、苦い結末。若き探偵が名探偵へと成長する前日譚であり、名探偵の新たな冒険劇の開幕を告げるエピソードでもあります。なお、本作はフジテレビで『金田一耕助VS明智小五郎』のタイトルで放映される予定(金田一耕助を山下智久、明智小五郎を伊藤英明、善池初恵を武井咲)。原作を尊重したシナリオらしいので、放映が楽しみ。
「《ホテル・ミカド》の殺人」(初出=『創元推理9』)
一族の結婚式に出席するため、それとシカゴ万博を見学するためにサンフランシスコを訪れたホノルル市警のチャーリー・チャン警部。彼は投宿先の《ホテル・ミカド》で、日本帝国海軍のタツギ・タクマ大尉が娼婦のデビーを射殺後ハラキリをして命を絶つという事件に遭遇する――。
芦辺先生のパスティーシュ第1作。E・D・ビガーズ(チャーリー・チャン警部)、ダシール・ハメット(私立探偵サム・スペード)、そして横溝正史が生んだ名探偵が夢の共演。贋作といえども、芦辺作品らしさはしっかりとあります。原典への敬意が感じられるので、読んでいてとても気持ちいい。某パロディ(誰の何という作品かは秘密)とは大違い。
「少年は怪人を夢見る」(初出=秋月達郎編『変化(へんげ) 妖かしの宴2』)
町外れの丘に鎮座する大仏様の胎内。鉄骨に縛りつけられた青年の前には、強力な火薬がびっしりと詰め込まれた荷箱。導火線の火は荷箱の間近に迫り、青年の脳裡に過去の記憶が映じる――。
怪人ここに誕生す。乱歩ワールドの住人が幾人も登場する怪奇探偵小説風の贋作です。
「黄昏の怪人たち」(初出=芦辺拓編『贋作館事件』)
これは私の友人の小学生のころの幻視体験。見知らぬ街角で出会った不思議なおじさんから聞いた話―それは、殺人の濡れ衣を着せられた怪人二十面相を名探偵明智小五郎が助けるというものだった――。
ノスタルジックな雰囲気が堪らない。芦部先生の贋作の中で偏愛している作品であり、収録作中一番好きな作品です。
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