芦辺拓『七人の探偵のための事件』(早川書房)★★★★☆

旧名鳴町、平成の大合併のあとは次萩市名鳴地区。統廃合で警察署がなくなったこの町で『人死に』が起こった。警察は何の捜査もせず、業を煮やした青年団員たちは大戸島佐市郎爺さんの助言で人死に慣れした探偵たちを雇うことにする。ところかわって東京・日比谷。千本プラザの上層階にあるミチ・ホールで、黄金時代の名探偵レジナルド・ナイジェルソープの来日記念講演会が開かれていた。講演中、使われていないはずの二階ボックス席で異変が起こる。犯人の邪悪な企みを阻止し、名鳴地区へ向かった七人の探偵(森江春策、平田鶴子、壇原真人、七星スバル、霧嶺美夜、レジナルド・ナイジェルソープ、獅子堂勘一警部補)を待っていたのは4つの事件。〈探偵〉たちは担当した事件の推理を繋ぎ合わせ構図を描くが、獅子堂警部補の指摘で崩れ去る。霧嶺美夜が事件に巻き込まれ、探偵歓迎会が開かれた那々木神社でも事件が起き、〈探偵〉たちはドス黒い殺意と対峙する。七人の探偵は怪事件を解決できるのか――。
『ミステリマガジン』で9回に亘って不定期連載された芦辺版名探偵祭りという趣きの長篇。芦辺先生にはバークリーとクリスチアナ・ブランドの推理に挑戦した「殺人喜劇のC6H5NO2」(『探偵宣言』所収)というパロディ色の強い短篇がありますが、本作はオリジナルの事件に森江春策ら七人の探偵が挑みます。
連載時は翻弄されて真相を見抜けませんでしたが、全てを知った上で読むと、あからさまに書かれている手掛かりや気付き自体が誤導の役割も果たしている(と書くと叙述トリックと思うでしょうが違います)ことに感嘆します。これは基本中の基本のテクニックですが、シンプル過ぎるが故に盲点になりがちなんですよね。名鳴地区で起きている事態、真犯人、怪事件の構図、名鳴の由来(単行本で解禁されると思ったんだけどなぁ(笑))――これらの入り組んだ事柄をなんの捻りも入れずシンプルに突き詰めて行くだけで謎が解けるのが素晴らしいです。また、作中で語られる叙述トリック批判(?)や探偵特有の思考の欠点も作品と結びつく点も見逃せません(切っ先が読者にも突きつけられている点も)。
残念な点をひとつ挙げると、七人の探偵全員が他作品で活躍しているキャラクターでないことが悔やまれます。保瀬警部と名探偵Zが登場できる雰囲気の作品ではないし、自治警特捜(登場させるとしたら支倉遼介警部か)や梧桐渉警部は大阪の警察官、橋本宗吉は江戸時代の人物。仕方のないことだとは分かっているのですが……。
再読するとより楽しめる作品ですので、是非ともご一読を。お薦め。
※文庫化の際には名鳴地区の地図の掲載と、連載中に発表された「夢幻紳士対少女探偵」(『ミステリマガジン』2011年4月号掲載)、本書刊行時に発表された「七人の探偵には向かない事件」(『ミステリマガジン』2011年12月号掲載)をボーナストラックとして収録して欲しいですね。

七人の探偵のための事件 (ハヤカワ・ミステリワールド)

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探偵宣言―森江春策の事件簿 (講談社文庫)

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