深谷忠記『阿蘇・雲仙逆転の殺人』(光文社文庫)★★★☆

伊良湖岬で左手首、御前崎で両手首・両足首が切断された女性の胴体、弓ヶ浜で右足首が発見された。検死で同一人物のものと断定され、被害者は博多に住む病院長夫人で資産家の伏見雪江と判明。雪江に三千万円の使途不明金があることが判明し、予備校〈英研ゼミナール〉の幹部に貸していたことを愛知県警の川久保刑事たちは掴む。一方、恋人の壮と阿蘇で婚前旅行を楽しんでいた美緒は、父・精一が詐欺容疑で警察に連れて行かれたとの連絡を受け帰京、警視庁捜査一課の勝部長刑事の協力で逮捕を免れる。精一は近所に住む英研ゼミナール教務部長・細田春男の入試詐欺に利用されただけだった。川久保刑事は英研ゼミナール副理事長・榎本幹彦が雪江殺しの犯人と睨むが、彼には鉄壁のアリバイが。そんな中、行方をくらましていた細田が長崎のホテルで死んでいるのが発見される――。
壮&美緒シリーズ第2作(前作の翌月に刊行)にして、「逆転」シリーズ第2弾。
今回2人が挑むのは、バラバラ殺人とアリバイ。アリバイを支えるために使用された機械トリックは“焼き切れた糸”の伏線がよく利いており、「なぜ両手足を切断したのか」「いつ、どこから遺棄したのか」の2点が逆転の発想で解かれると同時に鉄壁のアリバイが崩れる構成が美しい。
大部分が刑事の捜査パートで占められているため、共犯説から単独犯行説へと絞られていく過程が丁寧に描かれているのもいいですし、個人的には刑事に第2の事件のトリック(平凡なものだけれど)を解かせる見せ場を用意していることに好感が持てました。
地味ながらも、読み応えのある佳作です。
(再読)

阿蘇・雲仙逆転の殺人 (光文社文庫)

阿蘇・雲仙逆転の殺人 (光文社文庫)