清水一行『神は裁かない』(光文社文庫)★★★☆

松岡医院院長夫人で女医の柳子は、匿名の電話で夫の弘満がアパートを借りて浮気をしていると知る。そのアパートに向かった彼女はある室で夫がセミダブルベッドで寝ているのを目撃し、逃れるように飛び出した。翌朝、目覚めると、隣のベッドで弘満が絞殺されており、彼女は殺害を自供。柳子の弟で大学病院に勤務する外科医の徹夫は疑問を感じ、独自で調査を開始した。姉が行ったアパートは存在したがダブルベッドのある室は存在せず、調査は行き詰る。そんな中、同じ地域の医師も事件に巻き込まれる。富永邦彦は息子・邦雄を誘拐され犯人の要求に従い休院を余儀なくされ、杉原良雄は岡山で開催される医学会総会へ向かうために乗車した寝台特急「あさかぜ二号」から転落死する。犯人は患者の独占を狙う同業者なのか――。
清水一行経済小説の第一人者であり、『動脈列島』で日本推理作家協会賞を受賞したミステリ作家でもある。本作(1976年刊)は彼のミステリの代表作のひとつで、『火曜サスペンス劇場』では「天使の復讐」(志穂美悦子沖雅也共演)、『ザ・ドラマチックナイト』では「白衣の復讐」(坂口良子柴俊夫共演)のタイトルで映像化されている。
開業医の世界の実情と主人公の恋愛が、消えた部屋・児童誘拐・列車からの転落死という医療ミステリとは思えない道具立てと上手く融合。手垢のついたトリック群と途中で犯人に見当がつくのが痛い所だが、動機は現代にも通用するとても重いもので、社会派+本格の佳作と言っていいと思う。
(再読)

動脈列島 (徳間文庫)

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  • 発売日: 2010/06/09
  • メディア: DVD