佐野洋『高すぎた代償』(徳間文庫)★★★★

火災保険会社の調査課員だった久世信は、事故死した元上司の未亡人・那須野治子が女将をしている連れ込み旅館『なすの』の居候(というかヒモ)。客室にマイクを仕掛けて会話を録音・収集して楽しんでいる彼は、ある日、「部長」と若い女性の奇妙な会話を聞き男が何かを隠していると考え、会話に出てきた“一カ月ばかり前の心中事件”を手掛かりにして男が大東製鉄労務部長・大曾根健次と突き止める。大曾根を脅かしてやろうと考えた久世は治子に探偵事務所を開いてもらい、彼の私行を洗いはじめると奇妙な事実が浮かび上がり、心中事件に核心があると睨んだ二人はそれぞれ調査を進める――。
1959年6月刊の第2長編。
設定から分かるように、テレビドラマ化(テレ朝、テレ東)された「密会の宿」シリーズの原型。
文庫で210ページの短い長編で、第一部は久世の一人称、第二部は治子の一人称、第三部は三人称で真相が語られる三部構成となっており、第三部のラストで仕掛けが炸裂。伏線は十分貼られており(斎藤栄笹沢左保の作品を想起した)、現代ミステリでもたまに見るネタの先駆的作品といえるでしょう。
久世と治子の関係の変化や、結末を暗示する記述も上手く活きており、★4つは甘い評価かも知れないが、一読の価値がある秀作。
(再読)