西村京太郎『殺意の設計』(角川文庫)★★★★☆

三年前に新進の画家・田島幸平と結婚した麻里子の幸福な生活は、夫の浮気を密告する匿名の手紙で崩壊した。絵のモデルをしている桑原ユミとモーテルから出てくる所を目撃した彼女は、夫と共通の友人であり三年前に二人の前から姿を消し、今は仙台で実家の旅館を経営している井関一彦を呼び出し、相談する。和解させようと力になる井関に魅かれていく麻里子は、田島への不信感を払拭できず離婚を決意。田島の提案で乾杯して笑顔で別れようということになり、集まった田島・麻里子・井関の三人。乾杯をすると、田島と麻里子が突然苦しみだし死亡する。麻里子の日記の内容や田島が青酸加里を購入したことが判明したため、警視庁捜査一課の矢部警部補は無理心中と考え、捜査は終結した。田島の葬儀から一週間後、無理心中ではなく井関による殺人と訴えていた画家の江上風太が失踪したことを知った矢部警部補は、井関が一連の事件の犯人と確信し、独り再捜査を開始した――。
1972年6月刊(14冊目の著書)。
麻里子の視点で事件発生までを描く前半(第一章〜第四章)、矢部警部補の捜査を描く後半(第五章〜第十章)の二部構成をとっている本作、地味ながらも小技の数々が見事に決まっており(特に、青酸入りの酒を飲ませた方法は盲点を突いたもの)、構図を利用した動機の隠し方も素晴らしい。叙述トリックも(バレバレな形で)使われていて、徹頭徹尾、読者を騙してやろうという姿勢が感じられる。
『殺しの双曲線』には及ばないが、初期単発長編の中でも傑作の部類に入る作品です。
(再読)