辻真先『迷犬ルパンの名推理』(光文社文庫)★★★☆

ユノキプロの中堅タレント・環みやが事故死した。彼女が病院で亡くなった時刻、ヤマト放送のラジオスタジオに彼女からの電話がかかってきていたことから、幽霊電話の話が業界で囁かれるようになった。それから一年後。警視庁捜査一課の刑事・朝日正義は、ユノキプロの新人タレントで下宿先の娘・川澄ラン、ランの高校の後輩・柚木冬美とともに伊豆高原にある柚木家の別荘へ向かっていた。別荘行きはユノキプロの創立者で会長の柚木八千代が言い出したことで、息子で二代目社長の晶三、妻のとみ乃、長男の夏也も同行していた。八千代が行きたいというので一同は城ヶ崎海岸に立ち寄り、散策中、八千代が海に転落してしまう。彼女が見つからない中、一足先に別荘へ行くことになった朝日たちが到着すると火事で燃えており、黒焦げの死体が発見される。驚くことに、その死体は八千代だった。一週間後、柚木邸でとみ乃が密室状態の自室で絞殺され、ラジオ番組の収録直前に人気急上昇中のDJあかべ魚目が青酸カリを盛られ殺される。朝日はひょんなことから飼うことになった野良犬ルパンとともに難事件に挑む――。
1983年7月刊の「迷犬ルパン」シリーズ第1作。
このシリーズは赤川次郎の「三毛猫ホームズ」シリーズの二番煎じ(犬の探偵ポワロをという編集部の要請に、犬の怪盗ルパンで応えたという)だが、辻作品らしさに溢れた名シリーズのひとつ。パロディを前面に押し出した、文庫書下ろしの〈迷犬ルパン・スペシャル〉という番外編もある(『犬墓島』『線と面』がお薦め)。
シリーズ開幕となる本作、何と言っても第一の事件の凝った構図が素晴らしい。さりげない伏線が見事で、明かされた時に感心しました。また、第二・第三の事件のトリックは他愛ないものだが、過剰演出が犯人を導き出す手掛りになってしまうのが良い。
近江由布子、中込攻、那珂一兵、チェシャ猫、文英社の旅行雑誌『鉄路』の編集者・佐貫、人形アトリエ「銀の鈴」、スナック「蟻巣」と、辻ワールドでお馴染みのキャラクターや場所が登場するのが嬉しいし、序章にはあのキャラクターがゲスト出演(?)するサービスも。
辻流軽本格の快作です。
(再読)