谷恒生『船に消えた女』(ノン・ノベル)★★★☆

横浜・本牧埠頭に娼婦の死体が浮かんだ。被害者は川崎港分港の船員酒場『オリオン』のホステス・長崎洋子、二十三歳。自宅で絞殺され、港に遺棄されたと思われる。船舶鑑定人・日高凶平は、彼女が事件の三日前の早朝に茶色い髪の大柄な女と一緒に星光丸に乗船していたことを掴み、所轄の悪徳刑事・犬飼から星光丸の乗組員の妻が神戸で惨殺されたと聞く。娼婦のミハルに容疑がかかり、日高は事件の調査に乗り出した。二つの事件に繋がりがあると考えた彼は犬飼と神戸に向かい、妻の由利子を惨殺された司厨員・白神和三郎に会う。彼には鉄壁なアリバイがあったが、日高が見たことのないタイプの船員で胡散臭い。家には由利子の姉の鶴岡芙美子もおり、二人は仲が良さそうに見えことから犬飼は二人は共犯ではと考える。白神の人となりを知るため同僚の倉本忠男に会いに北九州の若松へ向かう日高に芙美子が同行、二人はアパートで張り込んでいた逆巻刑事から彼がヘロインの過剰摂取で死んだと聞く。死亡推定時刻の一時間前に女が訪ねてきたことが分かり、洋子殺しとの繋がりが見えてくる。三つの事件は白神の犯行と睨む日高は、鉄壁のアリバイと動機の謎に挑むが――。
冒険小説・時代小説・時代伝奇・アクション小説・架空戦記で活躍した谷恒生による初の本格ミステリで、連作短編集『錆びた波止場』(1980年7月刊)の船舶鑑定人・日高凶平、源爺、犬飼刑事が再登場する長編。文庫化時に『横浜港殺人事件』と改題。1981年4月刊。
アリバイトリックは分かりやすい形で伏線が貼られているものの専門知識を使ったものなのであまり評価できないが、最終盤のどんでん返しがなかなか良く、何気ない行動が伏線だったのには感心した。
著者による本格ミステリには『血文字「アカシア」の惨劇(別題: 虚空アカシャの殺人)』(1984年9月刊)もあるが本作はそれよりもよく出来ており、通俗的すぎるが佳作と言っていいだろう。
なお、日高凶平は短編「波止場の嵐―日高凶平「変死」」(『小説宝石』1983年1月号)「波止場の呼ぶ声」(アンソロジー『友!』[1988年11月刊]所収)の二作(他にもあるかも知れない)、トラベルミステリー長編『タイ・プーケットツアー殺人事件』(1991年1月刊)にも登場する。
(再読)