津村秀介『瀬戸内を渡る死者』(BIG BOOKS)★★★☆

『週刊レディー』の記者・北川真弓は四国取材の途中、屋島で女性の絞殺死体を発見した。被害者は上野で夫・幹夫とスナックを経営している滝田陽子と判明。胃の内容物から死の直前に焼き肉店に立ち寄ったと思われ、犯人は発見現場近くの廃屋になっている彼女の生家で絞殺した後、数日経ってから死体を移動させていた。同僚の菅生和彦と事件を追うことになった真弓は取材を進め、陽子の暗い過去を知る。彼女のヒモだった元暴力団幹部・種岡五郎が浮かび上がるが、動機がなくアリバイは完璧。幹夫による保険金殺人の疑いが浮上し、県警捜査一課主任の森安警部補は彼の鉄壁のアリバイを崩そうとする――。
単発物の第七長編。1985年4月刊。
火曜サスペンス劇場』の眞野あずさ主演の人気シリーズ『弁護士 高林鮎子25 瀬戸内を渡る死者』(1999年11月23日)の原作に使用された。
淡々とアリバイ崩しに挑むため、深みに欠け面白味のない物語なのはいつも通り(個人的にはそこが好きだが、津村作品を薦めにくい原因であるのは確かだ)。
「アリバイを崩したと思っても新たなアリバイが出てきて壁にぶつかる」という定番パターンで進み、ある事実が判明した瞬間にアリバイの意味が180度変わると共に疑問点の答えがずっと目の前にあったことが分かる最終盤が見事で、冒頭の記述の意味合いが変化するのも上手い。気になる所がいくつかあるものの、大した傷ではないだろう。
津村はテクニックの使い方が下手な作家だが本作では巧く使っており、津村作品の中で上位に入る秀作。
(再読)

瀬戸内を渡る死者 (広済堂文庫)

瀬戸内を渡る死者 (広済堂文庫)