辻真先『死体が私を追いかける』(徳間文庫)★★★☆

三ツ江財閥の令嬢・真由子が金庫から重要書類(通称「三ツ江ファイル」)を持ちだし家出した。トラベルライターの卵・瓜生慎は太宰府天満宮でのちょっとした事件がきっかけで彼女と知り合い、元税務署員の経営コンサルタント・日下部源吾を入れた3人で旅をすることになったが、行く先々で殺人事件に遭遇する。望海院温泉では謎の女が大浴場で刺殺され、阿蘇山では噴火の最中にマウントカーで密室殺人、新潟行きの寝台特急"つるぎ"のトイレには女の刺殺体が転がり、北海道十勝の得富温泉では死体が消えては現れ、新たな殺人が起きる。全ての事件には、被害者が身に着けているもの1つがあべこべになっているという共通点があった。犯人は真由子か、それとも彼女とファイルを狙う殺し屋か――。
「トラベルライター瓜生慎シリーズ」第1長編。1979年10月刊。
本シリーズは「トニー・ケンリック風のミステリーを」との注文に応えたもので一作きりの予定だったが、『日本・マラソン列車殺人号』(2011年8月刊)まで産休期間を挟み三十二年間(79〜86年、88〜93年、02〜11年の全三期)続いた、辻ワールドの代表シリーズのひとつとなった。
スラップスティック・コメディ、スクリューボール・コメディでもある本作、ミステリー部分もガッチリ組み立てられている。状況の使い方が上手く(特に阿蘇山の事件)、身に着けている物があべこべになっていた理由から犯人が浮かび上がるロジックが美しい。そして、そこから意外な趣向が明らかになるのが面白い。
軽妙さと重厚さを併せ持った本作は、本格ミステリ+トラベルミステリーの佳作である。
(再読)