深谷忠記『アリバイ特急+−の交叉』(講談社文庫)★★★☆

宮崎県日向市桜ヶ丘公園で東京都目黒区在住のホステス・相川理沙の絞殺体が発見された。上京した日向西署の北川刑事と県警捜査一課の小酒井刑事の捜査で東西化成工業開発企画課課長・柏木光彦が浮上、延岡に出張していた彼は事件の数時間前に日向市駅から上りの寝台特急「富士」に乗っていたというが、ずっと乗っていたという証拠・証人はない。十日後、北海道神宮で三津山物産専務・三津山茂の絞殺体が発見された。彼の免許証ケースに理沙の名刺が入っていたことから北川刑事たちは北海道に飛び、出張で札幌にいた柏木を聴取するが三津山との繋がりが見えない。大阪に出張した北川刑事たちは理沙の友人から被害者2人が一時期遊び仲間だったことを掴む。一方、東京では笹谷美緒の伯母・斎田直枝が8年前の娘・千秋の自殺に関する電話を受けた。壮たちと勝部長らの会談が行われている最中、柏木の妻多恵子が自宅で殺されたとの報せが入る――。
壮&美緒シリーズ第4作にして、「+−」シリーズ第1弾。 1987年7月刊。
今回はアリバイ崩し一本で勝負しているが単純な時刻表トリックではなく、盲点を突いたトリックを組み合わせているのが良い。いずれも先例のあるものだが、この組み合わせ方は珍しい。また、動機にひと捻りがあり、犯人の鬼畜さ(本シリーズの犯人は大抵、頭のキレる鬼畜だけど)を映えさせる効果に寄与しているのも良い。
「+−」シリーズの秀作『津軽海峡+−の交叉』(1988年1月刊)、『寝台特急「出雲」+−の交叉』(1989年3月刊)と比べると出来はやや落ちるが、端正なアリバイ崩し物として十分楽しめる佳作だ。
(再読)