津村秀介『黒い流域』(ケイブンシャ文庫)★★☆

集中豪雨で増水した津久井渓谷・相模川の河原で、大東洋建設常務の太田義行の妻・道子の変死体が発見された。犯行方法から犯人は左利きと推察され、捜査本部は左利きで二億円の資金流用や愛人が発覚し会社と家庭に問題を抱えていることが分かった義行の犯行と睨むが、彼には事件当日、仕事で熱海にいたという鉄壁のアリバイがあった。道子のハンドバックに入っていた画集の内容見本から義行の指紋が検出され、彼の犯行の線がさらに強くなったがアリバイを崩す突破口は見えない。共犯者と睨んだ第一発見者で腹心の部下・細川伸二のアリバイも成立し、捜査が行き詰まりを見せた中、義行の愛人で銀座のクラブ・モントレーのホステス小幡由美の変死体が酒匂川で発見されたとの連絡が入る。司法解剖で、彼女は道子と同日同時刻に殺されたと判明する――。
「雨の完全殺人」や「相模川・酒匂川殺人事件」の副題が付され、津村作品最多の7回刊行(第2長編『時間の風蝕』とタイ記録)された第3長編。1983年4月刊。
定番のひとつである「二人一役」トリックの使い方、犯人のド外道っぷり(共犯者のアリバイを作るため、別の共犯者に事故を起こさせつつ殺すという無茶苦茶で非道な計画!)は好みだが、詰め手にはガッカリ。倒叙物だったら文句はないが、アリバイ崩し物でこれはちょっとなぁ……。
また、冒頭のあるシーンは真相を知ったうえで読むと違和感があるので、省くべきだったと思う。
津村作品としては水準レベル(一般的には凡作)なので、津村ファンならば読んで損はないと思います。
(再読)