甲賀三郎『妖魔の哄笑』(春陽文庫)★★★☆

上野発新潟行き急行列車の二等寝台車で顔を切り刻まれた男の惨殺屍体が発見された。出張で新潟に向かっていた東洋石油社員の土井健三は犯人と思われ拘束されてしまう。屍体は寝台車の乗客の中指が欠けた四本指の男と思われていたが、富豪で横浜の貿易商の野崎寛吉である可能性が高くなる。野崎の令嬢・銀子に身元確認を依頼するため上京した軽井沢警察署の水松警部は、彼女が野崎に商売を任されていた成田支配人とホテルの部屋で話している最中に二人を悪漢一味に誘拐されてしまい、警視庁の協力で大宮まで追いかけ銀子を救出するが、重傷の成田を連れ去られたうえ捕えた男を殺されてしまい一味に辿り着く手掛りを失う。水松警部と軽井沢に来た銀子は屍体を確認するが、腕に刺青があったことから父ではないと証言。見当が外れた軽井沢署は水松警部に調査をさせつつ警視庁と協力して捜査を行うことを決定する。釈放され帰京した土井は出社すると社長の富永碌三に呼び出される。富永は野崎が東洋石油の株を買い占めている中沢万助に会うため新潟に向かっていたことを知り、彼に中沢と野崎の関係や野崎の生死と居所の探偵を命じた。渋々引き受け表向き休職となった土井は素人探偵として調査を開始した――。
『大阪時事新報』1931年(昭和6年)9月29日~翌32年(昭和7年)3月26日にかけて連載された長編。
あらすじに書いたのは春陽文庫版で80ページを過ぎた辺りまでの出来事で、この後も土井と水松警部は様々な事件に遭遇する。
新聞に連載されていたこともあり定期的に山場があって飽きないが、山場が多すぎて核となる謎がぼやけてしまっており、複雑に入り組んだ物語をご都合主義と偶然の連発で乗り切っているのが残念な所だが、謎解きはなかなかよくできている(これもご都合主義と偶然で乗り切っているが)。・・・犯人の最後の台詞には目が点になったけど(まさに〝最後の一撃〟/笑)。
プロットは勿論のこと謎とサスペンスに力が入っているうえトラベルミステリーの趣きもあり、なかなか面白い通俗探偵小説だと思う。
(2019/9/15記)