F・W・クロフツ『列車の死』(ハヤカワ・ミステリ文庫)

1942年、イギリスはドイツ軍の猛攻に苦しめられていた。戦時内閣は国内にある全ての放電管を、エジプトでロンメルと対峙するマッグレガーの部隊に送る極秘の物資輸送を決定する。臨時輸送列車が軸箱の故障により停車したため先行することになった後発の臨時旅客列車がプルオーバー駅で転覆事故を起こしダイヤに乱れが生じるが、輸送は無事成功。脱線事故は輸送列車を狙った破壊工作の疑いが生じ、軍需省のハドソンから相談を受けたロンドン警視庁の副総監モーチマー卿は、フレンチにスパイ組織壊滅の密命を下した――。
後期の代表作に挙げられることもある、1946年発表の第30長編(フレンチ物の長編としては26作目)。
フレンチの警視昇進を決定づけた事件を描いた本作は、極秘輸送計画誕生の朝からフレンチが捜査に乗り出すまでを描いた第一部(列車を擬人化してストーリーの進行とリンクさせた章題が付けられているのが素晴らしい)と秘密捜査とスパイ組織壊滅を描いた第二部の二部構成で、前職を活かした鉄道関連の描写・倒叙・足を使った捜査とクロフツらしい要素が投入された警察小説色の濃いスパイ・スリラー。
ある人物に疑惑の目を向けることになった着眼点はいいですが「小説でやられても……」という感じのうえ、スパイ組織の会合に潜り込んだフレンチにある行動を決意させたアクシデントに不満があります。しかし、臨時列車を仕立てる裏方の調整、フレンチの捜査に違和感を抱かせないための作戦(偽装工作の細かさがいい)、フレンチの変装・潜入捜査といった地味なシーンが面白いですし、最終盤の急展開もなかなか読ませます。
秀作・傑作といえる出来ではないけれど、それなりに楽しめる作品ではあります。
(大好きな作品だけど本作の魅力を説明するのは難しいので、「とにかく読んでください」としか言えないだよなぁ……)

列車の死 (ハヤカワ・ミステリ文庫 69-2)

列車の死 (ハヤカワ・ミステリ文庫 69-2)