大谷羊太郎『大密室殺人事件』(光文社文庫)★★★

裸一貫から財を築いた不動産業界の大立者・黒住泰造のもとに、彼が二十五年前に岩手県宮古市で起きた殺人放火事件の犯人であると告発する手紙が届いた。差出人を突き止め誤解を解こうと考えた黒住は探偵事務所に依頼、候補者五人のうち行方が掴めない二人の所在を突き止めるため黒住は目をかけている部下の灰山雄一と宍戸朔朗に調査をさせることにする。邸で妻の絵理花を入れた四人で話し合いをしている最中に三千万円を要求する二通目の手紙が届き、激昂した黒住は調査の中止を言い渡す。三日後、考え直した黒住は改めて四人で話し合いをするため灰山と宍戸を伴い帰宅するが執事の池上忠司がおらず、小間使いの小田切初枝、運転手の見川要次郎と妻の光子ら全員で邸中を調べると、密室状態の黒住の書斎で彼の刺殺体を発見。警察の捜査が難航する中、新たな脅迫事件と越後湯沢の別荘で第二の密室殺人が起きる――。
1989年1月刊行の〈八木沢庄一郎警部補シリーズ〉第1作。
タイトルに“大密室”とあり、密室殺人が2つ起きるので密室トリックに期待がかかるところですが、大谷らしいちゃちな機械トリックが使われているので期待してはいけません(大谷作品をある程度読んでいる人なら分かるでしょうが)。
本作のキモは思わぬ所から炙り出される黒幕の正体で、フェアかどうかは微妙な所だけれどそこそこ成功していると思います。
八木沢警部補は名探偵らしさ(黒住邸で初枝を取り調べるくだり等)が感じられ、大谷作品の看板探偵になるべくしてなったキャラクターといえるでしょう。
(再読)