大谷羊太郎『越後七浦殺人海岸』(光文社文庫)★★☆

吉成行夫には秘密があった。高校3年生だった12年前、想いを寄せるクラスメイトの宮地亜以子が廃工場で男を殺し、その廃工場の塀を一瞬ですり抜けて逃げるのを目撃したのだ。地元の所沢で活魚和風料理店を経営する彼は、同級生の送別会で浦上専一から卒業後消息を絶っていた亜以子が不動産会社会長・居差寺要造と結婚したことを知る。未だに亜以子を想う吉成は彼女を尾行し、浮気の現場を目撃する。
世田谷にある居差寺邸の寝室で、知らない男の他殺死体が発見された。公開捜査の結果、八王子郊外に住む中里宗治と判明し、刑事が彼の家を訪れると布団の中に居差寺要造の他殺死体があった。二人は同じ日の同じ時間帯に殺され、死体に移動の痕跡がないことから殺害場所は発見現場と断定される。亜以子には完璧なアリバイがあったが、彼女に興味を持った八木沢警部補は過去を探る――。
1990年1月刊。初刊時、「入れかわった死体」の副題が付されていた〈八木沢庄一郎警部補シリーズ〉第2作。
「寝床と寝巻を交換した死体」というシチュエーションは百点満点だが、真相にはガッカリ。大谷羊太郎なので大して期待していなかったが、それでもこれはちょっとなぁ……(因みに、十八番の機械トリックが絡んでいる)。また、塀のすり抜けは人を食ったバカトリックで苦笑。トリックだけを取り出すと駄作でしかないが、〝情〟を全ての事件に絡ませ説得力を持たせている点には感心した。
本シリーズが〝情〟に重点を置いた旅情ミステリーに移行していったことを考えると、その萌芽が見られる重要な作品なのかもしれない。
(2020/01/15再読)

越後七浦殺人海岸 (光文社文庫)

越後七浦殺人海岸 (光文社文庫)

  • 作者:大谷 羊太郎
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 1993/06
  • メディア: 文庫