阿井渉介『湖列車連殺行』(講談社文庫)★★★

上野駅五番線に到着した上野・宇都宮間の快速電車「ラビット」から降りた木俣喜一の背から煙が上がり、まもなく火が吹き出し上半身が炎に包まれた。彼は一命を取り留めたが、病院で点滴の針を打ち変えられて殺される。犯行時刻、看護婦が青く光る女の幽霊を目撃しており、枕元にあった黄燐が混入された湯呑みと駅で発見されたガソリン入りのポリ容器から同じ指紋が検出された。彼が鳥取に行くと言って家を出たと妻から聞いた牛深は白兎海岸に幽霊が出たという新聞のコラムに目を留め、松島と現地へ飛び幽霊騒動の他に東京の証券会社社員・田原敬二の服毒自殺があったと知る。彼が黄燐入りのジュースを飲んで死んだと聞き、ジュースの缶の指紋を電送すると東京で検出されたものと一致したため連続殺人として捜査が開始された――。
上野署の次長で警察庁キャリアの白川が加入してパワーアップした〈列車シリーズ〉第2作。
今回、牛深たちが挑むのは「カチカチ山」の見立て殺人。冒頭から煽り、地味だった前作よりケレン味が増し、シリーズとしてエンジンが温まってきた感がある。
見立ての理由は犯人の心情がきっちり描かれているので一応の説得力はあるものの、他にやりようがあった気もするのはこのシリーズではいつものこと。光る幽霊と人間がマネキンに変わったトリック、アリバイトリックは残念な出来だが、火だるま事件でのカチカチ音の役割は単純ながらも上手い。
前作同様、牛深と松島のかみ合わなさに加え白川との絡みも面白く、また、牛深とヒロインのプラトニックな関係がとてもいい。
佳作とまではいかないが、なかなか楽しめる作品。
(再読)

火の湖(うみ)列車連殺行 (講談社ノベルス)

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湖列車連殺行 (講談社文庫)

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