種村直樹『日本国有鉄道最後の事件』(徳間文庫)★★★

昭和61年12月4日、東京発〈ひかり41号〉が名古屋駅に到着した。翌4月1日に発足する中京旅客鉄道株式会社に関する重大会議に出席する要人三人――自由党衆議院議員・星野一郎、経済連副会長・栗原和浩、国鉄再建監視委員を務める経済学者・佐田教授――を出迎えるため、田村駅長と二人の助役に鉄道公安室長の永井はホームで待っていたが、三人は降りてこなかった。東京で乗車が確認されている三人はどこへ消えたのか? 刑事部長から特命を受けた愛知県警捜査四課の高杉警部は捜査を開始した。
五か月前の7月、新幹線総局電気部電気課長・藤田克彦は、大学の後輩でカメラマンの日野一夫から「政府首脳と一部の財界トップが国鉄分割民営化で甘い汁を吸おうとしている」と聞きショックを受ける。ある筋から脅迫されている彼から密談と資料を写したフィルムを託された3日後、常磐線で日野の轢死体が発見された――。
レイルウェイライター種村直樹の初長編(大須賀敏明との共同制作)で、〈鉄道警察・高杉警視(本作では愛知県警警部)シリーズ〉第1作。
巻末に「この作品は、公共企業体日本国有鉄道への弔辞にかえるフィクションである」とあるように、本作は国鉄分割民営化をテーマにした社会派色の濃い作品(国鉄分割民営化は『JR最初の事件』〔1988年1月〕、『JR瀬戸大橋線の危機』〔1989年1月〕でもテーマになっている)。
「東京駅からノンストップで走行している新幹線からの人間消失」という不可能状況は魅力的ですが、トリックは残念なもの(リアリティを重視するとあの方法しかないのは分かるが……)なので、不可能犯罪物として読むとガッカリします。
社会派ミステリーとして見ると、種村の国鉄民営化についてのスタンスが前面に出ていますがバランスがとられているので嫌味には感じず、本作で指摘される問題は現在でも続いていることもあり、いま読んでも考えさせられます。
戯画的すぎる五か月前の出来事や玉虫色の結末など気になる所があるものの、駄作・凡作と切り捨てるには惜しい作品だと思います。