阿井渉介『雪列車連殺行』(講談社文庫)★★★☆

早朝、上野駅に着いた急行「津軽」から死体が消え、翌日、駅近くにあるデパートのショウ・ウィンドウに飾られた。被害者が日進興業取締役で南蔵王ホワイトランドの佐山義男と判明し、南蔵王へ向かった牛深警部補は到着早々、アトラクションにある全てのサルの人形の首の切断、ミスコン参加者の毒殺未遂、イタコのような女の突然の出現と倉庫からの消失に遭遇。さらにはホワイトランドの敷地から女性の白骨が発掘され、謎が山積みになる中、第二の殺人が起きる――。
奇想トラベル・ミステリー〈列車シリーズ〉第3作。今回、牛深たちが挑むのは「サルカニ合戦」と「三猿」を組み合わせた見立て殺人。
前作以上に冒頭から煽り、不可能状況を矢継ぎ早に連発してグイグイ引き込む本作、ノベルス版の「著者のことば」に書いているように〝見立ての理由づけ(必然性)〟に力を入れており、前2作より説得力がある(本シリーズで見立て殺人に拘っていた時期の中では一番)ので成功していると言えるだろう。犯人に関する伏線は大胆に貼られており、トリックはシンプルなものを上手く組み合わせていてよく考えられているが、謎解きがごちゃついているのが残念。
本作には社会派の要素もあり、事件の背景だけでなく松島刑事のパーソナルな部分にも絡ませているところが良い。白川次長の講義、牛深とヒロインのプラトニックな関係とシリーズのお約束も健在で、シリーズの中で佳作といえる作品のひとつ。