深谷忠記『津軽海峡+-の交叉』(講談社文庫)★★★★

女流推理作家・高岡沙也夏に会いに函館へ来た笹谷美緒。新作執筆の確約を得て安堵した美緒は沙也夏からこの後に来る銀嶺書店の弘田辰夫と三人で食事をと誘われ到着を待つが、彼は姿を現さなかった。
翌日、青函連絡船に乗り青森を訪れた美緒は、小説家志望の定時制高校教師・土橋滋と会う。その頃、夏泊半島で弘田の服毒死体が発見された。函館に向かっていた彼が「青森で知人と出会ったので連絡船を一便遅らせる」と上司の小松崎学に連絡していたことから刑事たちは殺人と確信するが、会った人物と殺害動機が浮かび上がらず捜査は難航する。
二週間後、美緒をはじめとする各出版社の編集者に脅迫状が届き、三鷹の東京天文台の敷地で小松崎の毒殺死体が発見される――。
〈黒江壮&笹谷美緒シリーズ〉第6作にして、「+-」シリーズ第2弾。青函トンネル開通により青函連絡船が廃止される二か月前に刊行された作品である(1988年1月刊)。
本作は何と言っても「津軽海峡ですれ違う上下の連絡船に犯人と被害者が乗っていた」という第3の事件のシチュエーションと、それを支える完璧すぎるアリバイに尽きる。完璧すぎるアリバイの真相(トリック)は反則気味だが、入念な準備には感心しかない。
また、慎重の上にも慎重を期す犯人の唯一のミスである失言(専門知識だが、一応、伏線が貼られている)を利用した逆トリックがバシッと決まる痛快さもよく、シリーズ上位に入る秀作と言っていいだろう。

津軽海峡+-の交叉 (講談社文庫)

津軽海峡+-の交叉 (講談社文庫)