千澤のり子『少女ティック 下弦の月は謎を照らす』(行舟文化)★★★★☆

小学五年生の少女・片瀬瑠奈が巻き込まれた事件を描いた連作集。

「春 第一話 少女探偵の脱出劇」(「危険なすれ違い」改題)(初出=『ジャーロ』54号・2015年夏号)
 五年生に進級したばかりの春。瑠奈はスイミングスクールに向かう途中、おばあさんに扮した女性に拉致監禁されてしまった。携帯ゲーム「みんなの村」のすれ違い通信で出会ったフレンドに助けを求めたが、ゲームの世界でも孤島に閉じ込められてしまう――。

「夏 第二話 少女探偵の自由研究」(初出=『ジャーロ』58号・2016年秋冬号)
 夏休み。保育園で毎日一緒に遊んでいたヒロちゃんに会うため、年賀はがきの消印を手掛かりに茨城県月光町へ行くことにした瑠奈。自由研究を兼ねた初めての一人旅を楽しむ彼女はスケジュール通りに到着したが、月光町は出会う大人が女性ばかりというおかしな町だった――。

「秋 第三話 少女探偵の運動会」(「運動会レンジャー」改題)(初出=『ジャーロ』57号・2016年夏号)
 運動会直前の九月末。瑠奈は「死神に命を狙われている」と一年生の松島秀人から警告された。学童の女子トイレ内で二人の男性が話しているのを聞いたという。クラスメイトの桐島くるみも「この学校には死神がいるよ」とつぶやく。特撮ドラマ『ゴーストレンジャー』と同じことが運動会でおきるのか?

「冬 第四話 少女探偵と凍死体」(「真冬の朝の謎」改題)(初出=『ジャーロ』59号・2017年春号)
 一月三週目。スマホ専用のアプリゲーム「ハント・モンスター」をプレイするため早起きして隣町の運動公園に繰り出した瑠奈は、斎藤さんというおじいさんと知り合い、公園の近くの祠にゴールド旗が立てられていることに気付く。数日後、瑠奈は祠の側のアパート風月荘の一室で大家の女性の凍死体が発見されたと知る。しかも、兄が撮った写真にその部屋にいた女性が写っていたという――。

「エピローグ」(書き下ろし)
 片瀬瑠奈はため息をついた――。

ソロデビュー作『マーダーゲーム』から一貫して未成年を主人公にしたミステリーを発表してきた作者の新作の主人公は、小学五年生の女の子。小学生の視線に立ち、日常で出会った些細な謎(と言っても、第一話は拉致監禁されているところから始まるが)の裏にへヴィーな事情が隠されていたことが明らかになり、驚愕のエピローグが待ち受ける連作集となっている。
優しく暖かな作品の雰囲気が謎の裏にあるへヴィーな事情を映えさせ、胸に深く突き刺さる。特に、第三話のラストは第二話の結論が前振りとなっていることもあり、大きなダメージを受けることだろう。エピローグでのサプライズは唐突なのは確かだが、伏線を張るとノイズになってしまい作品の雰囲気が壊れてしまうので、これで良かったと思う(面白ければ、何をしてもいいのですよ)。お薦め。

少女ティック 下弦の月は謎を照らす

少女ティック 下弦の月は謎を照らす