南條範夫『月影兵庫 上段霞切り』(光文社時代小説文庫)★★☆

旗本の次男坊・月影兵庫は十剣無統流の遣い手。義理の伯父で老中の松平伊豆守信明から邸から逃げた綾姫を連れ戻すよう頼まれた兵庫は、宗像十太夫・岡島忠衛門・黒祖父左京・奥女中の桔梗と東海道を往き、様々な事件に遭遇する――。
月影兵庫シリーズ第1弾。
兵庫は若くて色白で女にモテて、武芸全般に通じている(十剣無統流は剣・槍・薙刀・棒術・柔術・拳法などの総合実戦流派)という超人。
週刊誌連載だったため1話あたりの枚数が少なく、物足りなさを感じる話が多い。
ミステリ―編の「通り魔嫌疑」「血染めの旅籠」「首のない死体」(末國編『傑作選』に収録されている)は伏線が張られている「血染めの旅籠」はいいとして(ある事柄についても伏線を張ってほしかったが)、残り2編は落第としか言いようがない。「通り魔嫌疑」は面白い犯行方法だが伏線はなく、この枚数で描くには無理がある。「首のない死体」も枚数不足。
チャンバラ編では兵庫が無双する「十剣無統流」、宿敵・幻一角との決着がつく「消えた綾姫」の2編がいい(前者は例によって枚数不足だが)。
意外な事実が明かされる最終話「五色の川」には、時代劇『三匹が斬る!』シリーズ最終回恒例のドッキリ展開を連想してしまった(『三匹――』との違いは、この展開を当初から構想していたことが分かる点)。
文句多めに書いたが、娯楽読み物としては十分面白いので興味のある方は読んでみてはいかがだろうか。
初出=『週刊東京』1958年7~12月連載
初刊=1959年2月『月影兵庫聞書抄 上段霞切りの巻』(東京文藝社)
(※約30年ぶりの再読)

月影兵庫 上段霞切り (光文社文庫)

月影兵庫 上段霞切り (光文社文庫)