横溝正史・島田一男・井沢元彦・島田荘司/佳多山大地=編『悲劇への特急券 鉄道ミステリ傑作選〈昭和国鉄編Ⅱ〉』(双葉文庫)★★★★★

『線路上の殺意』に続く鉄道ミステリ・アンソロジー第2弾。
 横溝正史「探偵小説」
 島田一男「鉄道公安官」
 井沢元彦「不運な乗客たち」
 島田荘司「ある騎士の物語」
以上、ビッグネームの傑作4編を収録。

巻頭の横溝正史「探偵小説」は、鮎川哲也編『下り〝はつかり〟』にも採られた名編。
温泉地で起きた女学生殺しを題材にした探偵小説を書くことにした探偵作家が駅の待合室でプロットを話していると――。
メイントリックは有名なものが使われており(作中で前例があると認めている)、サブトリックも渋く決まっていて、犯人のミスはメイントリックと結びついている点が良い。終盤の展開は安直だと言う人もいるだろうが、私はああいうのが好きなのでニヤニヤしてしまった。
〝日本のガードナー〟(と初出誌のチラシにある)島田一男「鉄道公安官」は〈鉄道公安官・海堂次郎〉シリーズ第1作で、日本ペンクラブ編『悪夢の最終列車』にも採られています。
大阪から急行〝出雲〟に乗車した助教授が車内から姿を消した。スリ団を検挙するため乗車していたわたし(海堂)が辿り着いた真相とは――。
スピーディーな展開でグイグイ読ませる、「産業推理」の趣きもある軽ハードボイルド。プロットは良い。最終盤の展開は軽ハードボイルドらしいと言えるものだが、本作には合っていないと思う。
井沢元彦「不運な乗客たち」日本ペンクラブ編『殺意を運ぶ列車』にも採られた傑作で、〈名探偵・南条圭〉シリーズの一編。
満員の通勤快速が鉄橋にさしかかった瞬間ドアが開き、投げ出された乗客が死亡する事故が起きた。美術評論家にして名探偵の南条圭が邪悪な企みを暴き出す――。
本書のイチオシで、〝ミステリー作家・井沢元彦〟の凄さが分かる作品。とにかく読んでほしい。
掉尾を飾るのは島田荘司「ある騎士の物語」。ご存じ〈名探偵・御手洗潔〉シリーズの一編で、鉄ミスアンソロジーに採られたのは初めて。
東所沢で裏切者が射殺された時、動機を持つ四人の若者は恋ヶ窪にいた。いかにして騎士は裏切者を処刑したのか?
犯人当て小説として発表された作品で、伏線が分かりやすく張られているので犯人とトリックを当てるのは簡単。解決編での御手洗のある人物への言動もいいが、犯人の手紙が読み所。

今巻もビッグネームの作品を4作収録。前巻と比べるとパワーダウンしているように見えるが、全くそんなことはない(前巻の収録作が強力すぎただけ)。
面白い鉄ミス短中編はまだまだあるので、長く続けてほしいアンソロジー・シリーズだ。