笹沢左保『同行者(どうぎょうしゃ)』(カッパ・ノベルス)★★☆

白昼の繁華街で夫と息子を刺殺された美也子。犯人・唐牛は覚醒剤の禁断症の錯乱状態を理由に不起訴となる。四年後、ホテルで唐牛と人妻の心中死体が発見され、美也子と再婚した夫・石毛の二人に容疑がかかるがアリバイが成立し、警察は心中と結論を下す。二人は関西・九州・北陸・北海道と旅をしながら事件について話し合い、真相に迫る――。
小説宝石』1983年9月号~12月号連載の長編。文庫化の際に『悪魔の道連れ』と改題。
「某週刊誌の記事より抜萃(ばっすい)」と題して事件の概要を説明した冒頭以外を二人の会話だけで構成した長編ミステリー(恩田陸『Q&A』という〝完全作〟が出るまでは、本作が唯一の全文会話体の長編ミステリーだった)であり、トラベル・ミステリーでもあるという作品。
笹沢には全編会話体の短編集『どんでん返し』があるが、本作はその長編版。「著者のことば」から苦労と自信の程が窺えるが、会話の繋げ方が強引で成功しているとは言い難い。アリバイ崩しを主眼とした作品だが、長編を支えるには弱いトリックと真相なので冗長な感じは否めない。途中、「この話、いる?」と思う部分があるが、ラストに絡んできてまんまとしてやられた(強引ではあるが)。
伏線不足のため本格としてはいい評価ができないが、笹沢節全開の夫婦の物語として読む分には十分楽しめると思う。