松嶋智左『女副署長』(新潮文庫)★★★

昇任し、県内初の女性副署長として日見坂署に赴任した田添杏美警視。八月三日、台風直撃による出動に備え、多くの署員が前泊していた。災害対策本部が設置された最中、署の敷地内で地域課第二係係長・鈴木警部補の刺殺体が発見される。証拠は雨で流され、防犯カメラは何も捉えていなかったことから、犯人は署内に潜んでいる――つまり本官が犯人である可能性が高い。刑事課課長・花野警部と対立しながら、杏美は所轄の誇りを賭けて事件を解決しようと決意する――。
〈女副署長・田添杏美〉シリーズ第1作である本作は、台風直撃の一夜に起きる様々な事件に取り組む警察官の姿を描いた警察小説にして本格ミステリ
メインの事件である巨大な密室となった警察署及び敷地内で起きた警部補殺しは、関係者たちの内面や捜査の過程で浮かび上がってくる人間模様がとても上手く描かれていて面白く、杏美と花野がそれぞれの警察官としての矜持(どちらも間違っていないのがいい)を賭して対立する所が熱い。当然のことながら謎解きは申し分のない出来だ。
メインの事件以外では、母子を救出するエピソードが良く、この後に起きる事件(このエピソードも熱い!)の前振り的なものだが、本作の印象的なシーンの一つになっている。
今月末刊行の第2作(杏美は他の署に異動したらしい)が楽しみ。

女副署長 (新潮文庫)

女副署長 (新潮文庫)