倉阪鬼一郎『鉄道探偵団 まぼろしの踊り子号』(講談社ノベルス)★★☆

東京・新橋の喫茶店「テツ」に集う鉄道ファンたち。鉄道探偵団を名乗る彼ら・彼女らが、急いで下りてきたばかりの新幹線ホームへ別の階段を使い駆け上がっていく鉄道写真家(「東京駅で消えた男」)、湘南ライナー1号を踊り子号に誤認させる男の目的(まぼろしの踊り子号」)、山伏峠で出会った必死の形相でミニベロを漕ぐ男(盲腸線の果てに」)、嘘をついて2両編成の列車の二号車を切り離した鉄道マンの兄弟(「消えた二号車」)、Mr.Rが三つの駅に残した忘れ物(「終着駅の忘れ物」)、五つの謎を解き明かす連作集。
クラニーによる鉄道ミステリー(本書が刊行されるまでテツだと知らなかった)。細かい鉄道ネタは勿論のこと、マラソン(ランニング)・俳句・昭和歌謡ネタも出てくるのはご愛嬌。また、出てくる料理が美味しそう(特にケーキ)で、「『テツ』が実在したらなぁ……」と何度思ったことか(笑)。
さて、この連作は殺人事件が絡む第1話以外は人情噺(第5話はゲーム要素が強いけれど)なのでバカミスを期待するとガッカリするが、人情味溢れたライトミステリーとして十二分に楽しめる。
「何もこんなトリックを使わなくても……」という力技のトリックが炸裂する「東京駅で消えた男」がベストだが、Mr.Rの心情がぽろっと出る「終着駅の忘れ物」も良い。
ライトな鉄ミスもいいが、やはりクラニーにはバカミス系の鉄ミスを書いてほしいですねぇ……。