松嶋智左『開署準備室 巡査長・野路明良』(祥伝社文庫)★★★

東京都からそれほど遠くないY県。ある事故で重傷を負い九か月の療養を経て復帰した元白バイ隊員・野路明良巡査長は地域合併により誕生した姫野市に設置される姫野署の開署準備室総務課に異動となり、説得されて取り止めた退職を再び考えはじめていた。開署まであと数日、彼は準備室のメンバーたちと家具・備品・機材の搬入と開署セレモニーの準備に勤しんでいたが、余分な書類棚の搬入、署内で目撃された怪しい人影、防犯カメラの不具合と問題が発生。さらには警察学校時代の恩師・山部警部補が襲撃され、重篤となる。
遡ること約一か月前、信大山で白骨遺体が発見された。死後十年前後経過しており、殺害後に裸で埋められたと考えれた。管轄である三戸部署の捜査は難航するが、遺留品のボールペンの文字と落合巡査部長の記憶が合わさり、被害者は十二年前の現金輸送車襲撃事件の共犯と思われる平田厚好と判明した――。
新シリーズ〈巡査長・野路明良〉シリーズ開幕。
『女副署長』シリーズの群像劇にアクションが加わり、いつものように警官の矜持を描くだけでなく野路の再生譚・若手警官の成長譚も組み込まれており、とても面白い小説になっている。物語が大きく動き出すまで時間がかかるが、地味ながらも姫野署パートも面白いため不満には感じない。
「何が起きている(起きようとしている)のか?」は見破りやすく、犯人(凶悪犯)のキャラクターもいい。特にある人物に関してはさりげない描写が効いていて、最終盤で驚かされた。
楽しみなシリーズがまたひとつ増えて、嬉しい。