深谷忠記『執行』(徳間書店)★★★★

1992年2月、N県掘田市で登校途中の女子小学生2人が行方不明になり絞殺死体で発見された。2年後、赤江修一が逮捕され死刑判決が下される。無実を主張する彼は控訴・上告するが棄却され、判決確定から2年後に刑が執行された。
2014年3月、最高裁の上告中だった島渕透が自殺した。3か月後、第一発見者の刑務官・森下裕次が実家の裏山で自殺し、従兄で同僚の滝沢正樹は衝撃を受ける。
2015年6月、堀田事件弁護団宛に事件の真犯人を名乗る「山川夏夫」なる人物から手紙が届いた。彼からの手紙は2通目で、今回は犯人のものだという毛髪が入っていた。調査を開始した弁護士の須永英典は東西新聞の荒木記者の協力を得て差出人と思われる人物を突き止めたが……。
2019年3月、東京高検検事長・鷲尾淳夫が文京区千駄木にある春木神社の境内で殺された。警察は必死の捜査態勢を敷くが難航、やがて刑事たちは司法制度を揺るがすスキャンダルに辿り着く――。
深谷忠記による社会派本格ミステリ最新作。
「冤罪」「死刑制度」「操り(ネタバレになるので背景と同色にしています)」と深谷作品ではお馴染みの要素が使われている本作、「操り」に軸足を置きつつホワイダニットに拘っており、地味ながらも堅実なストーリー展開でぐいぐい読ませる。司法制度を揺るがすスキャンダルは究極の完全犯罪といえるもので、制度上(ああいうルートがあるとは知らなかった)実行可能なのが恐ろしい。
個人的に評価しているのは、主要登場人物に死刑制度へのスタンスが分かることを言わせていないこと。読めばわかるが、本作の場合そういう台詞はノイズにしかならないので好判断だと思う。
もう少し枚数がほしい(それでも500ページ強ある)ところだが、力作であるのは間違いない。お薦め。