西村京太郎・宮脇俊三・天城一・森村誠一/佳多山大地=編『殺人者を乗せて 鉄道ミステリ傑作選〈昭和国鉄編Ⅲ〉』(双葉文庫)★★★★★

鉄道ミステリ・アンソロジー第3弾。

西村京太郎「『雷鳥九号』殺人事件」からスタート。鮎川哲也編『無人踏切』採録
大阪発金沢行きの特急「雷鳥九号」のトイレで射殺体が発見された。被害者と親しげに話していた女性客の犯行としか考えられないが、彼女は完全黙秘。送検され公判が始まったが、事件は意外な展開を迎える――。
十津川警部〉シリーズを代表する中編の一つで、ストーリーテリングの妙を堪能できる傑作。
もうすぐ終盤という所で明らかになる不可能犯罪とそれに付随するいくつもの謎や完全黙秘の理由を逆転の発想で一気に解き明かす手並みが鮮やかで素晴らしい。一部ツッコミ所があるものの、大きな瑕ではないだろう。

宮脇俊三「『殺意の風景』 隆起海岸の巻〔鵜ノ巣断崖〕」・「『殺意の風景』 石油コンビナートの巻〔徳山〕」は第十三回泉鏡花文学賞を受賞した唯一の小説集『殺意の風景』収録作で、基本的なアリバイトリックが使われている二編。共に鉄ミスアンソロジー採録
「隆起海岸の巻」は、愛人との関係を清算するためアリバイ工作を弄して完全犯罪を遂行しようとする男の物語。倒叙形式で心理に重点を置いており、あのラストは評価が分かれるところかもしれない。
「石油コンビナートの巻」は、ひさしぶりに「あさかぜ」に乗った国会議員と思われる男。食堂車に現れた男に誘われ予定外の視察をするため途中下車することになり――という物語。当時の国鉄の状況が垣間見える作品。そうなる切っ掛けとなった出来事の顛末も含めて思わぬ形でトリックが使われる所に面白味がある。

天城一「準急《皆生》」は〈島崎警部〉シリーズの一編で、Rルームの美女も登場。日本ペンクラブ編『殺意を運ぶ列車』が初出。
新宿区の集合住宅で売れないデザイナーの絞殺体が発見され、元恋人に容疑がかかる。準急《皆生》に乗り遅れたため事件発生時までに東京へ行けないと主張するが、それを証明する証人が行方不明で――。
あるアクシデントを絡めることにより事件を複雑化しているのがミソで、証人となる人物の扱いがとても上手い。トリックは基本的なものだが、作中に挿入されている時刻表を読み込めば解けるフェアプレイ精神に溢れた作品。

森村誠一浜名湖東方十五キロの地点」はノンシリーズの短編。鮎川哲也編『下り〝はつかり〟』採録
虚しい日々を送るノンポリ大学生。ガールフレンドを内ゲバで殺されたことで学生運動に憤りが湧いた彼は己の虚無を充たすため、彼女の追悼のため、来日中の要人暗殺計画を実行に移す――。
70年安保闘争が根底にあるクライム・ノヴェルで、森村節が炸裂する一本。完璧(に見える)な計画が成功するか否か、しかと見届けて下さい。なお、「編者解説」ではタイトルにもなっている襲撃地点はどこなのかが特定されている。

5編収録となった今巻も良作揃い。
「編者解説」にあるように、本シリーズの収録作は鮎川哲也編と日本ペンクラブ編のアンソロジー採録作が中心となっている。これらを持っている者としては今まで採録されたことのない作品を優先してほしいと思うが、収録作を気軽に読める環境ではない(一部の作品はブックオフ等で収録書を安価で入手できるけれど)ので、この方針でいいのかもしれない。
国鉄編が続くのかJR編になるのか分からないが、第4弾も期待したい。