中町信『佐渡ヶ島殺人旅情』(BIG BOOKS)★★★

佐渡を訪れた売れない推理作家の氏家周一郎と妻の早苗。氏家が所用で新潟に行くことを話すと、女子マラソンのオリンピック代表で飛行機事故で亡くなった知人の孫娘・武里久子の墓参をしたいとかねてから言っていた早苗が佐渡へ足を延ばさないかと提案したのだ。到着した夜、『ホテル相川』の駐車場の石垣のわきの草むらから北本三千江の撲殺体が発見された。彼女はホテルのロビーで誰かを見て「あの写真の人だわ……」と言ったといい、それは早苗、作詞家・矢城夏世、オリンピック代表の補欠だった浜岡洋子の母親・ゆり子、元マラソン選手・鳴海亜紀の四人のうちの誰かのようだ。翌日、久子の墓参りを済ませた氏家夫妻が佐渡金山の「そば処」で休憩しているとタヌキ穴の近くで女性が死んでいると騒ぎになり行ってみると、矢城夏世が死んでいた――。
佐渡金山殺人事件』改題。
長編12作目で、氏家周一郎シリーズ第1作。
中町は本作発表の翌年に医療系出版社を退職して専業作家になり量産体制に入るが、本作はその幕開けとなった作品と言え、ダメな部分も含めて中期(量産期)中町作品の要素がほぼ全盛りされている。
ミスディレクションが巧妙で、「オーム」の意味に全てを賭けてそれが解けると事件の構図が一発で見えるというシンプルな構成は流石の一言。前述したようにダメな部分(キャラクターに魅力がない等)があるものの中期作の中では出来は悪くない(佳作の一歩手前)ので、読んでみてもいいと思う。