浅黄斑『富士六湖 まぼろしの柩』(カッパ・ノベルス)★★☆

台風による豪雨で山梨県上九一色村に出現した「幻の湖(赤池)」の底に女性の全裸死体が沈んでいた。家出人捜索願が出された古西千都子のようだと神奈川県警から報告があり、県警捜査一課の松川巡査部長は神奈川県警捜査一課の篝俊輔警部補の協力のもと伊勢原市で聞き込みを行うが、彼女の足取りは掴めない。夫の市三は評判が悪く、千都子に二億一千万円の保険金をかけていたことが判明し捜査本部は彼への疑いを深めるが、彼には愛人と京都・金沢旅行をしていたというアリバイがあった。
一方、篝は独自に捜査をする過程で恋人が被害者となった八年前の強姦殺人事件の容疑者に辿り着く――。
第3長編で、篝俊輔シリーズ・第1期〈殺人水脈〉三部作の第1作。文庫化時に『富士六湖殺人水脈』と改題。
幻の湖に沈んでいた死体という第1の殺人のシチュエーションが魅力的なのでトリックに期待してしまうが平凡なトリックなのでガッカリするかもしれない。ただ、幻の湖でなければいけなかった理由、第2の殺人でも湖に沈めた理由を「著者のことば」にある〝愛と苦悩と哀愁のドラマ〟と絡ませている点は評価できる。
本作で残念なのは本筋の連続殺人と篝自身の事件に外連味がないことと、浅黄が描きたかったであろう〝愛と苦悩と哀愁のドラマ〟が盛り上がりに欠けることで、地味になるのはアリバイ崩し物の宿命とはいえ良い素材を活かしきれていないと感じた。
とはいえ水準はクリアしているので、機会があったら読んでみてもいいと思う。