辻真先『9枚の挑戦状』(光文社文庫)★★☆

『文庫のぶんこ』で募集した「求む! 辻真先への挑戦状」に寄せられ、その中から選ばれた9つの謎。光文社文庫の編集者・中井はバンザイした辻真先の代わりにアマチュアたちに挑戦させることにした。鷹取ミステリークラブにも声がかかり、メンバーたちは9つの謎に答える短編を書き上げ、論評し合うが――。
出されたお題をあの手この手でクリアしていくが捻ったものが多いので、ズルい気がしないでもない(笑)。最後のお題「読者以外皆犯人」の料理の仕方はお手の物という感じで、さらにもう一段階踏み込んでいるのは流石。

9枚の挑戦状 (光文社文庫)

9枚の挑戦状 (光文社文庫)

ホレーショ・ウィンズロウ&レスリー・カーク『虚空に消える』(Re-ClaM編集部)★★★

ロバート・エイディーが『Locked Room Murders and Other Impossible Crimes』で絶賛した幻の不可能犯罪ミステリ"Into Thin Air"が遂に邦訳。
トホホ系のトリックが連打されるためガッカリする人が多そうだが(小技を積み上げていくタイプの作品の宿命)、〝J・D・カー登場以前の不可能犯罪長編ミステリ〟としては結構頑張っている方だと思う。「探偵小説講義」「消失講義」が活きているのがいいし、探偵役によるショーの後の展開には驚いた(あのネタも用意していたとは……)。
また、訳者解題は冷静かつ示唆に富んだ内容で、こちらも面白い(本作はいろいろと深堀り出来る作品だと思う)。
傑作とも駄作とも言えない評価に困る作品だが(この手のタイプの作品は、振り切れた部分があったほうがはっきりと評価しやすい)、読む価値はあると思う。個人的にこういう作品は大好きだが、評価をしない人の気持ちも分からないではない。

笹沢左保『同行者(どうぎょうしゃ)』(カッパ・ノベルス)★★☆

白昼の繁華街で夫と息子を刺殺された美也子。犯人・唐牛は覚醒剤の禁断症の錯乱状態を理由に不起訴となる。四年後、ホテルで唐牛と人妻の心中死体が発見され、美也子と再婚した夫・石毛の二人に容疑がかかるがアリバイが成立し、警察は心中と結論を下す。二人は関西・九州・北陸・北海道と旅をしながら事件について話し合い、真相に迫る――。
小説宝石』1983年9月号~12月号連載の長編。文庫化の際に『悪魔の道連れ』と改題。
「某週刊誌の記事より抜萃(ばっすい)」と題して事件の概要を説明した冒頭以外を二人の会話だけで構成した長編ミステリー(恩田陸『Q&A』という〝完全作〟が出るまでは、本作が唯一の全文会話体の長編ミステリーだった)であり、トラベル・ミステリーでもあるという作品。
笹沢には全編会話体の短編集『どんでん返し』があるが、本作はその長編版。「著者のことば」から苦労と自信の程が窺えるが、会話の繋げ方が強引で成功しているとは言い難い。アリバイ崩しを主眼とした作品だが、長編を支えるには弱いトリックと真相なので冗長な感じは否めない。途中、「この話、いる?」と思う部分があるが、ラストに絡んできてまんまとしてやられた(強引ではあるが)。
伏線不足のため本格としてはいい評価ができないが、笹沢節全開の夫婦の物語として読む分には十分楽しめると思う。