小杉健治『月村弁護士 逆転法廷』(徳間文庫)★★★★

昭和四十八年六月二十二日、静岡県藤枝市で大衆食堂『中井食堂』を営む中井英和、妻・芳子、長男・英一の三人が惨殺され、二ヶ月後に岡野保が逮捕された。昭和五十六年に死刑が確定し、翌五十七年十一月、冤罪事件支援団体『冤罪救済センター』は岡野の息子・慎一から助けを求められ、橋田法律事務所に所属する若手弁護士・月村耕介は橋田の代わりに事件に関わることになった。新証言や証人を得た藤枝事件弁護団の再審請求が認められ、昭和五十九年四月に再審裁判開始、翌六十年五月十五日に無罪判決が出る。同年十二月、岡野を犯人と睨み取調べを行った志木吾一元警部補が殺され、岡野が逮捕される。中井英和の娘のひづるに嵌められたと主張するが、数々の証拠は彼の犯行と指し示す。悩んだ末、月村は共同弁護人になり法廷に立つ――。
1986年7月刊の第五長編。
『土曜ワイド劇場』の北大路欣也主演の人気シリーズ『事件11』(2004年2月28日放送)の原作に使用された。
小杉流法廷推理の最初期の傑作のひとつ。
冤罪を扱っているが、テーマは「被害者及び被害者遺族の救済」。32年前にこれを題材にした先見性に驚くが、第三長編『二重裁判』(1986年6月刊)で「死亡した被疑者の名誉回復」(無実を訴え死んだ被疑者も被害者と見做せるだろう)をテーマにしていたことを考えると 、何ら不思議はないかも知れない。
再審無罪が出るまでやや長いが、ある人物の狙いが明かされたのち選択を迫られ、全てがひっくり返る結末へ至るまでの流れが圧巻の一言。また、テーマと付随する形で人権派の驕り・欺瞞が描かれているのも良い。
読んで損のない作品です。
(再読)

月村弁護士 逆転法廷 (トクマ・ノベルス)

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