ジュール・グラッセ『悪魔のヴァイオリン』(ハヤカワ・ミステリ)★★

原題“LES VIOLONS DU DIABLE”/ARTHEME FAYARD社,2004/野口雄司=訳/ポケミスNo.1780
日曜日、サン=ルイ島にあるサン=ルイ=アン=リール教会でミサが始まろうとしていた。だが、時間になってもポワトゥヴァン司祭は現れない。助祭聖歌隊の少年に呼びに行かせると、司祭は自宅で撲殺されていた。事件の捜査には、パリ警視庁のメルシエ警視と制服隊隊長ピニョルがあたることになった。ピニョルは司祭のアパートの3階に住む教会のヴァイオリン奏者の少女ジュリーに嫌疑をかけるが、メルシエは彼女の犯行とは思えず別の線で捜査を開始する。同じ頃、サンテ刑務所に収監されている銀行強盗犯デデが、ある計画を公言する。仲間のギヨームの手助けで脱獄し、自分を密告した売春婦のジゼールを殺すいうのだ。刑務所長はデデを5階の重警備棟に移したので脱獄は不可能と言うが、メルシエはデデの計画通りに事が運んでいるのではと心配になる。そして、その予感は的中し、デデは驚くべき手口で脱獄する。
※展開をばらしています。
2005年度パリ警視庁賞受賞作。翻訳が少し硬いが、すらすら読める。短い枚数で2つの難事件をどう処理するのだろうかと楽しみにしていたが、あまりにも酷くて唖然としてしまった。司祭殺しはきちんとケリをつけるのだが、脱獄事件の方は盛り上げるだけ盛り上げておいて、電話で「デデを射殺しました」と報告を受けて終わり。しかも、共犯者のギヨームがどうなったかについては一言も触れられていない(重要なキャラクターなのにいいのか?)。いやぁ〜、ビックリした(笑)。劣化コピーではあるが雰囲気は良いので、シムノンメグレ警視シリーズのファンにお勧めしたい一冊。

悪魔のヴァイオリン (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

悪魔のヴァイオリン (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)