西ゆうじ・作/長尾ともひさ・画『あべせで用心 閑談の章』(ビッグコミックス)★★★★

快!
(裏表紙・鈴木清順監督の推薦文より)

由井正雪の乱の後、江戸市中非常警戒のため誕生した「江戸北町奉行所風烈廻方」の活躍を描く連作集の第1巻。九篇収録。
※ネタばらしの箇所は背景と同色にしています。
第一話「帆掛け船」
 風が見える男、風烈廻与力・神谷悠介登場――。
 “風が見える”という表現が良い。主要登場人物の紹介をしなければならないため、急ぎ足気味だったのが惜しい。もう少しページがあれば夫婦間の溝が描けて、より完成度が高まったのに。
第二話「さみだれ写し」
 江戸市中で交通事故が増加。筆頭与力・山田多門は、風烈廻・高積廻・養生所見廻の三見廻りに交通護身術指南を行うよう命じる――。
 高橋玄養が登場。写し絵奉行所に採用されていたとは知らなかった。
第三話「水脈(みお)尽くし」
 深川埋め立て地の利用法を考える風烈廻の面々は、豊後から来た農学者と大坂のからくり師と出会う――。
 大蔵永常がいいキャラしてる。
第四話「颶風(ぐふう)来たる」
 茗荷山神社の神主と町民の間で、ケヤキの伐採を巡って争いが起きていた。境内に植わっているので問題ないと言う神主、町を守るため境界線を兼ねて埋められたものだと主張する町名主。問題解決を押し付けられた風烈廻の裁きや如何に――。
 (結果的に)風烈廻が本来の仕事をするエピソード。あの人物が後の伊能忠敬だったとは、びっくり。
第五話「芸の雨」
 江戸の水不足は深刻だった。そんな中、風烈廻は『芸の雨』(将軍家の慶事に催す御能拝見の日に必ず降ると言われる雨のこと)を必ず降らせろとお上から命じられる――。
第六話「ふわふわ」
 神谷の命により、高橋玄養の私塾で蘭語を学びはじめた村井と小島。二人は丹波からやってきた若侍・新之助と仲良くなる。上の方に蘭学塾通いが知られ、カピタンの接待係を命じられた風烈廻。それ知った新之助は、二人に接待の手伝いを願い出る――。
 「いくら土地を耕し、種を植えても、雨を降らせるのは高い所……雲の上の人の仕事ですよ」という神谷のセリフにぐっとくる。
第七話「ひょろひょろビント」
 北町奉行所の恒例行事・早駆け試合で勝ち、風烈廻の汚名返上をと意気込む小島。神谷は彼を南房総にある幕府直轄牧場『峯岡牧』へ向かわせる――。
 こういう話に弱いんだよなぁ。
第八話「ならいの日」
 五年に一度、江戸に吹き荒れる乾ナライ。近頃、江戸市中では、火のない所での煙騒ぎと、『ならいの鬼』と呼ばれる凶悪な盗賊による押し込みが頻発していた――。
 裏切られた男の物語。これは捕物帳(ミステリー)として、なかなかのものだと思う。
第九話「きらきらブリフ」
 捕り逃したこそ泥を捕らえるため、江戸へやってきた大阪西町奉行所同心・高橋作左衛門。風烈廻が助力することになったが、神谷らは連日、高橋を連れ出して遊興三昧――。
 ジョージ・ワシントンの桜の逸話が効果的に使われていて感心。収録作の中で一番好きなエピソードです。

芦辺拓先生のtweetで知った時代劇漫画。いやぁ、面白い。詳しい感想は第2巻の記事に書きますが、ぐっとくるエピソードが多くて参りました(最近、涙もろくなっちゃって……(笑))。

あべせで用心 1 (ビッグコミックス)

あべせで用心 1 (ビッグコミックス)