『ミステリーズ! vol.44』を拾い読み

ミステリーズ! vol.44』(2010年12月)を拾い読み。
明神しじま「商人の空誓文」
 異国から来た黒い外套を着た男は、広場で少女からりんごを買い酒場へ入った。酒を注文しりんごを剥いていると、青年に声をかけられる。二人は七年前、ノドの国で起きた出来事がきっかけで知り合った。男は青年に「影男とナイフの話」を買わないかともちかける――。第7回ミステリーズ!新人賞佳作。文章は今一つだが、伏線の貼り方はなかなか上手。読了後、カルマがキドウの手首をつかんだ本当の理由に思い至り感心しました。個人的にはバッドエンドにするべきだと思うけど、面白かった。第7回の3作の中では本作が一番好き。
深緑野分「オーブランの少女」
 美しいオーブランの庭の一般に公開されていない「奥の庭」で、管理人の老姉妹の姉が殴り殺される。犯人の女は被害者とそう年は変わらなく、精神錯乱で自己を喪失していた。一ヵ月後、女は収容された刑務所で死に、管理人の妹は居宅の台所で首を吊る。謎だけが残り、事件は町の人々の格好の暇つぶしの種になった。三年後。私は娘から、妹から死の直前に渡されたという古い本を渡される。それは手記で、驚くべき出来事が書かれていた――。第7回ミステリーズ!新人賞佳作。名家の血みどろ惨劇話だと思っていたのだが、ナチスネタだったとは。この分量でも十分楽しめたけど、枚数の関係で登場人物の書き込みが必要最低限だったり、クライマックスが駆け足気味だったのが残念。長篇化するといいと思う。
木村二郎「永遠の恋人」
 一週間前から届くハガキを書いた人を見つけてほしい、というのが今回の仕事。ハガキが届くようになってから依頼人のデボラ・ノートンは、日に数回かかってくる無言電話や、誰かに尾行されている気配に悩まされているという――。私立探偵ジョー・ヴェニス、復活。早川書房から刊行された作品集『ヴェニスを見て死ね』に未収録作(2,3編あったはず)を追加して文庫化してほしいなぁ。
芦辺拓『スチームオペラ 蒸気都市探偵譚』(第二回)
 見習い体験の引き受け先に名探偵バルサック・ムーリエを選んだエマは、ムーリエの承諾を得て助手(本当は「見習い」)となった。ムーリエは《極光号》の航海中にカプセルごと収容され地球に連れ帰られた謎の少年(名前はユージン)を預かっており、申し出を承諾したのは、どうやってもカプセルから出なかったユージンをエマが出した(近づいただけなのだが)ため、そばに置いておくのが好都合と判断したのではないかとエマは思っている。見習い体験初日、ムーリエの盟友にして警視庁の名刑事・ダイアス警部がやってきて捜査協力を要請、ムーリエはエマとユージンを伴い現場へ向かう――。前回ああいう形で終わったので続きが気になっていたのですが……普通に探偵小説になっていた(笑)。世界いや宇宙を股に駆ける冒険活劇になる日はくるのか!?
 ふと思ったんですが、「この作品は昏睡状態の新島ともかが見た夢である」とかいうことはないですよね。いや、ほら、第一回に《海賊船シー・サーペント号》が出てきたし、バルサック・ムーリエ→春策森江と変換できますし(笑)。
アンドリュー・クラヴァン「クリスマスの殺し屋」The Killer Christian(初出=「ミステリアス・ブックショップ」クリスマス用パンフレット)
 十二月半ばにミステリアス・ブックショップの四階で起きた発砲事件は広く知られているが、事件を正しく理解している者は誰もいない。この事件の真実を、わたしがありのままに伝えようと思う――。2007年のパンフレットに掲載された短篇。この手の物は門外漢なので、どう評すればいいのか分からんです。
杉江松恋「路地裏の迷宮踏査44 ネヴァーランドのバリ」アントニイ・バークリー『パニック・パーティ』の源流。興味深いことが書かれていて、勉強になった。

ミステリーズ!vol.44

ミステリーズ!vol.44

パニック・パーティ (ヴィンテージ・ミステリ)

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