小杉健治『裁かれる判事――越後出雲崎の女』(集英社文庫)★★★★

千葉地方裁判所松戸支部の判事・寺沢信秀は、担当事件の被告人の妻・岩田歌江に船橋の喫茶店『道』に呼び出された。判決に手心を加えるよう頼まれ、ホテルに誘われたがすんでのところで逃げる。駅前に戻った彼は赤いコートを着た女に声をかけられ、新小岩のホテルで彼女を抱いた。その頃、船橋のホテルで歌江の絞殺体が発見される。捜査本部は寺沢と歌江が会っていたことを掴み、任意の事情聴取を行う。最初、寺沢は会ったことを否定していたが、写真週刊誌に2人の写真が掲載されたため渋々認めるが事件との関与を否定、赤いコートの女とホテルにいたとアリバイを主張する。女と待ち合わせしたことを思い出した寺沢は警察の監視下で船橋駅前に立つが女は現れず、遂に警察は逮捕に踏み切る。彼の無実を信じる義妹・杉原早紀子は赤いコートの女の捜索を開始した――。
1987年8月刊。『越後出雲崎の女』のタイトルで『小説NON』に連載された第9長編(11冊目の著書)。
アイリッシュの名作をベースにした本作、赤いコートの女が証言台に立った後の急展開にとにかく驚く。衝撃の事実が明かされて事件の様相が一変し、苦い真相へと一気になだれ込む。操りテーマの作品としては微妙だが、この急展開一点張りの姿勢には清々しさを感じずにはいられない。
旅情ミステリーの趣きが強く法廷推理を期待するとガッカリするし、この時期の小杉作品としてはやや劣るが、良作です。
(再読)

裁かれる判事 越後出雲崎の女 (集英社文庫)

裁かれる判事 越後出雲崎の女 (集英社文庫)