朝松健『本所お化け坂 月白伊織』(PHP文庫)★★★

妖かしに取り憑かれた人の前に現れる“本所お化け坂”。坂の上にある第六天社の神宮寺の百怪寺に住む浪人・月白伊織と息子の太郎が、日本一の祟り神とされる第六天魔王の威徳を借り、妖かしを祓う連作集。書下ろし。
第一話「蠅声(さばえ)」
 上野沼田藩の奥祐筆・渥美半兵衛は、碁敵の亡妻の墓参りに付き添い八王子に赴いた。江戸に戻った晩、不思議な夢を見、それからというもの“奴等の声”に悩まされ、遂には休職を命じられる。このままでは気が狂ってしまうと思った半兵衛は、巣鴨本覚寺の住職の紹介で百怪寺を訪れる。
第二話「すみ姫さま」
 日本橋の油問屋・近江屋善兵衛は、江戸でも一、二を争う数寄者として知られている。狩野夢妙なる絵師による美人画「阿刀院澄子之図」を手に入れた善兵衛はこの掛け軸に一目惚れし、私設美術館となっている内蔵に閉じこもる。日に日に生気を吸い取られ弱っていく善兵衛に効くのは妖怪学のみ。平賀源内の紹介で百怪寺を訪れた手代の伊之助は、伊織に助けを求める。
第三話「汚尸鬼(おしき)」
 摂津麻田藩江戸家老・吉田日向守は、ある春の朝、謎の眼病に見舞われ病気療養を願い出る。藩主から特別に江戸に残ることを許され、新井薬師が眼病に霊験あらたかと聞き毎日参詣していると、ある夏の早朝、枕元に薬師菩薩が現れ眼病を治した。新井薬師の縁日の日にお礼参りをした帰り、吉田日向は境内で死神を目撃してしまい……。
ゴーストハンターものの佳作。3篇とも「“心のスキマ”に付け入られ、怪異に巻き込まれる」というパターン。江戸時代を舞台にしているが、取り憑かれた人の“心のスキマ”は現代でも通用するものばかりで、現代への暗喩ともとれる記述が散見している。フォーマットは完成しているので是非ともシリーズ化してほしいけど、無理かな。

本所お化け坂 月白伊織 (PHP文庫)

本所お化け坂 月白伊織 (PHP文庫)