山本巧次『早房希美の謎解き急行』(双葉文庫)★★★

池袋駅をターミナルとする大手私鉄武州急行電鉄に勤める早房希美が、「埼玉県警にその人あり」と言われる鬼刑事だった祖父・喜一郎の知恵を借りながら様々なトラブルを解決する連作集。
踏切の障害物検知装置の作動が頻発する裏にある企みが暴かれる「遮断機のくぐり抜けは大変危険です」、駅員に階段で突き落とされたと証言した被害者の秘密が明らかになる「雨の日は御足元に十分ご注意ください」、ストーカー事件が意外な展開を迎える「危険物の持ち込みはお断りしております」、痴漢男の不敵な笑みの真意に迫る「痴漢は犯罪です」、特急で誰かを捜している不審な乗客に手を差し伸べる「特急のご乗車には特急券が必要です」、以上5編を収録(全て書き下ろし)。
架空の鉄道を舞台にした、連作鉄道ミステリ。
巻頭に路線図と停車駅案内が掲載されていて、「鉄ミスはこうでなくちゃ!」とテンションが上がります(時刻表は載っていませんが、作中の諸々の記述から察すると作られていると考えていいでしょう)。
40~50ページくらいの中に「魅力的な謎」「人間ドラマ」「鉄道マンならではの情報と知識」が詰め込まれており、スピーディーな展開でぐいぐい読ませます。短いため一部のエピソードでは真相がバレバレですが、不満は感じません。
個人的ベストは意外な詰め手がバッチリ決まった「痴漢は犯罪です」だが、ストーカー騒動が思わぬ事態に発展する「危険物の持ち込みはお断りしております」、ベタなラブストーリー「特急のご乗車には特急券が必要です」の2編も捨てがたい。
各編安定したクオリティで、良質の連作集といっていいでしょう。シリーズ化希望。

早房希美の謎解き急行 (双葉文庫)

早房希美の謎解き急行 (双葉文庫)