井上雅彦=監修『ダーク・ロマンス 異形コレクションXLIX』(光文社文庫)★★★★★

異形コレクション》、復活。高品質のアンソロジーでした。(11月25日読了)

以下、Twitterに投下した収録作の簡単な感想。

櫛木理宇「夕鶴の郷」
クズ男が報いを受ける話(超簡略化)。
伏線がじわじわ効いてくるラストが上手い。

黒木あるじ「ルボワットの匣」
あることに悩む男がバーで老人の話を聞き――。
グロ描写は俯瞰した感じで、どこか可笑しみがある。メインのネタにアレが絡んでくるとは……(老人の家系や恋人が死んでいた状況から予想するべきだった)。不意打ち卑怯なり(笑)。

篠田真由美「黒い面紗(ヴェール)の」
若い芸術家の卵たちが住む『巣(ネスト)』を訪ねてきた未亡人は彼らに肖像画を描いてほしいと依頼し――。
文体・構成ともに素晴らしく、「ルボワットの匣」同様ラストで思わぬものと繋がり、驚いた。

澤村伊智「禍(わざわい) または2010年代の恐怖映画」
ホラー映画『禍』の撮影現場で映画と同じ怪奇現象が起き、やがて――。
王道のホラー短編。「これしかない」という所へ綺麗に落ちて大満足。

牧野修「馬鹿な奴から死んでいく」
魔術医(ウィッチドクター)の俺は最強にして最悪の魔女と対決することになってしまい――。
とぼけた味わいの伝奇アクション・ハードボイルドで、どう纏めるのかと思ったら……オチでひっくり返る(笑)。「こんな展開予想できるか!」と思ったが、堂々と伏線が貼られていた。参りました。

伴名練「兇帝戦始(きょうていせんし)」
時代伝奇。
義経チンギス・ハーン説」をこういう形に料理したか。まさかアレが出てくるとは……(改めてアレの使い勝手の良さを感じましたね・笑)。

図子慧「ぼくの大事な黒いねこ」
SFミステリー。冷やりとした感触のラストが上手い。

坊木椎哉「ストライガ」
悪女か聖女か――二人の女の告白。
読む前は意味が分からない(伯爵の前説のラストにヒントがあるけど)が、読了後に「これしかない」と感じるド直球のタイトル。最終盤の告白は、まさに異形。

荒居蘭「花のかんばせ
ショートショート。サゲが見事。

真藤順丈「愛にまつわる三つの掌篇」
「血の潮」「サンタクロース・イズ・リアル」「恋する影法師」の三篇からなる作品。
どれも好編だけど、「恋する影法師」が好み。こういうラストに弱いのですよ。

平山夢明「いつか聴こえなくなる唄」
人間の少年と家畜(のように扱われているゴリラのような種族)の少女の〈ボーイ・ミーツ・ガール〉。
伯爵の前説に全て書かれていた。終盤手前のある記述にひっかかりを覚え、ラストで「やっぱりなぁ……」と。

上田早夕里「化石屋少女と夜の影」
化石屋の少女・紗奈は梨々子と名乗る女性と出会う――。
ファンタスティックでロマンティック、そして残酷な物語(と、私は読んだ)。時として、願いは呪いになる。

加門七海「無名指(むめいし)の名前」
心理スリラー味のある奇譚というかなんというか(上手く言えない)。すごく惹き込まれる物語でした。

菊地秀行「魅惑の民」
固有名詞がイニシャルになっているが、紛れもなく「×××もの」。確かにこれは菊地秀行にしか書けないですわ。傑作。

井上雅彦「再会」
現在の社会情勢を織り込んだ闇の物語。最後の台詞の素晴らしさよ。掉尾を飾るに相応しい逸品。