千澤のり子『鵬藤高校天文部 君が見つけた星座』(原書房)★★★★☆

わたしが失った物
 あなたがくれたもの
   ありがとう……
でも、わたしはひとつ、大きな嘘をついていた。  (帯の惹句)

千澤のり子嬢、6年ぶりの単著は『ジャーロ』に不定期掲載された連作を纏めた青春ミステリー連作集。全五話。

「見えない流星群」(初出=『ジャーロ』No.42 2011 SUMMER)
 高校の合格発表の帰り道に事故で重傷を負い、四月の終わり近くから学校に通えるようになったわたし(菅野美月)は、クラスメイトの高橋誠に勧誘され天文部に入部した。六月、おひつじ座流星群を観測するため、ひと月早く徹夜観測をすることになった。放課後に屋上で観測の準備をしていると佐川ひとみ先輩が部室棟に変な光を見つけ、霧原真由美先輩が天体望遠鏡で見てみると誰かが倒れているのを発見する。様子を見に行こうとしていると、「山岳部の部室で先生が死んでいる」と榊原大和先輩が駆け込んでくる――。
 唯一、殺人事件が起きるエピソード。事件の謎解きを利用して主人公の秘密を明かすのが主眼になっているが、その流れが自然で伏線も丁寧(丁寧過ぎ?)に貼られており、とても良い。

「君だけのプラネタリウム(初出=『ジャーロ』No.47 2013 SPRING)
 11月初旬、週末に開催される学園祭の準備で忙しい。一年五組の小早川美紀が変質者に襲われたと、天文部の同級生・村山友紀から聞いたわたし。土曜日の夜、下校中に髪をバッサリ切られたという。事件が起きた同じ時刻に部長の中村圭司先輩が撮った梨畑の写真に写っていた地上に輝く星座は、事件と関連があるのか? 数日後、天文部が作っている段ボールのプラネタリウムから箱に入れられた黒髪の束が発見され、事件は意外な展開を見せる――。
 髪切り魔事件の顛末が描かれるエピソード。生々しくエゴイスティックな動機が鮮烈な印象を残す。各要素の繋げ方がとても上手い。

「すり替えられた日食グラス」(初出=『ジャーロ』No.50 2014 SPRING)
 わたしは二年生に進級した。五月、二週間後に金環日食が起きることから、世間ではちょっとした天文ブームが起きている。廃部の危機を迎えた天文部は、金環日食観測イベントを開き新入生を勧誘することにした。牛乳パックで日食グラスを作ることになったが、学校の近所で資源ゴミ箱から牛乳パックだけがなくなっていて入手にてこずる。村山が歯科大学病院から譲ってもらった牛乳パックで二百個の日食グラスを作り配布を開始するが、一年生の戸田君が教室に置いていた日食グラス五十二個ともども盗まれてしまう。数日後に戻ってくるが、六十二個が別の物にすり替えられていた――。
 日常の謎。天文部と犯人、立ち位置の違いが生んだすれ違い。優しいラストにほっこりする。

「星に出会う町で」(初出=『ジャーロ』No.51 2014 SUMMER)
 期末テストが終わった七月はじめ。食中毒で参加できなくなった大学の天文サークルに代わり、星里町のエコツーリズムでボランティアを務めることになった天文部。星里町に向かう列車内で、わたしは部のSNS更新を担当している村山から〈ロキ〉というストーカーの話を聞く。このツアーに参加していると思われる〈ロキ〉、増えていた参加者、不倫相手の子供を拉致し逃走中の若い女性の存在、何かがおかしいと感じつつ、砂浜での天体観測がはじまる――。
 ある人物の隠れた想いが明らかになるエピソード。さりげなく操りテーマだったりする。

「夜空にかけた虹」(「星空にかけた虹」改題/初出=『ジャーロ』No.53 2015 SPRING)
 十二月半ば、中学まで住んでいた町で女性の白骨死体が発見された。わたしが遭った事故の関係者と見られることから、警察に聴取された。冬休み最後の日、天体観測に付き添ってくれていた高橋に事故の詳細とその後に起きたことを語った。「これで全部?」との問いに、わたしは嘘をついた――。
 帯の惹句にある(主人公にとっての)「大きな嘘」が明らかになる最終話。「大きな嘘」については序章でバレバレ(勘の良い読者ならすぐ分かる)なのだが、主人公が気にしているのが微笑ましい。

学園要素とミステリ要素のバランスが絶妙で、全五話すべてに「想い」があり、あたたかな世界観との相性は抜群。読後、とてもやさしい気持ちになれます。お薦め。

鵬藤高校天文部:君が見つけた星座

鵬藤高校天文部:君が見つけた星座