赤川次郎『華麗なる探偵たち』(徳間文庫)★★★☆

1984年3月刊。『SFアドベンチャー』に1982〜1984年にかけて発表された、鈴本芳子と第九号棟の住人たちが難事件を解決する「第九号棟シリーズ」第1弾(本書のみ短編集)。
「英雄たちの挨拶」(1982年9月号)
 20歳の誕生日を迎えた私(鈴本芳子)は父の遺産4億円を相続することになったが、遺産を狙う叔父夫婦に一服盛られ、一生、病院で暮らすことになってしまった。第九号棟の住人となった私は、そこで知り合ったシャーロック・ホームズ氏と剣豪ダルタニアンに、地下室にあるエドモン・ダンテスが堀った抜け穴に案内される――。
「死者は泳いで帰らない」(1982年11月号)
 第九号棟と父から受け継いだ屋敷での二重生活を送る私は、探偵の真似事を始めた。警察が投げ出した事件も調べ直すという噂を聞きつけ、大川一江が訪ねて来た。高校の水泳部選手だった弟の哲志がプールで溺死したという――。
「失われた時の殺人」(1983年3月号)
 回顧録を執筆中の警視庁の元警部・大里和哉が、書斎として使っていたプレハブ小屋で死んでいた。現場は密室状態。私は娘の祐子から「殺されたのでないことを立証してほしい」と依頼され、調査を開始した――。
相対性理論、証明せよ」(1983年6月号)
 羽田ルミは父で理論物理学者の哲平が講演会に乱入するのを阻止するためA会館にやってきたが失敗、時を同じくしてロビーでマスコミに人気の若き天才学者・戸川が刺殺される。第九号棟の「客」となった父と、戸川殺しで逮捕された父の弟子・市山和行を助けようと動き出した彼女の前に現れたのは――。
「シンデレラの心中」(1983年10月号)
 アルセーヌ・ルパン氏に「代理」を頼み、湖畔のホテルで休暇旅行としゃれ込んでいた私たち。湖で男一人女二人の三人心中事件が起き、男の妻の小沼康子の依頼で、どちらの女と心中したのか調査することに――。
「孤独なホテルの女主人」1984年3月号)
 北沼健治、佐々木京子、坂口リエの大学生3人はスキーに来たが、宿はどこも満室。やっとのことでホテルを見つけ、泊まることができた。このホテルには私も宿泊していた。数日後、健治が助けを求めて訪ねて来た。あの晩、町の銀行の金庫が破られて三千五百万が盗まれ、犯人に車を使われた彼に容疑がかかっているという――。
第1話はイマイチだが、それ以外はなかなかの出来。特に、自身の旧作(超有名作)のトリックを改変した第3話「失われた時の殺人」と、ある人物の思惑が明かされる第5話「シンデレラの心中」の2編がよく出来ている。
設定は荒唐無稽だが芯はしっかり。赤川流軽本格が楽しめる連作短編集です。
(再読)