深谷忠記『無罪』(光文社文庫)★★★

シンナー吸引常習の若者・江守真人に2歳になる息子を殺され、葬儀後に妻を自殺で亡くした新聞記者の小坂宏樹。江守は刑法第三十九条が適用され懲役6年に減軽され、小坂は江守の殺害を決意するが自堕落な生活を送るうちに殺意が薄れ、不祥事を起こして松本支局に左遷される。彼は交番を取材中、子供を抱えて駆け込んできた女性の様子に興味を覚える。平沼香織は11年前、ノイローゼになり我が子2人を殺して無理心中を図ったが刑法第三十九条により無罪となった過去を持つ。彼女の支援者だった克則と結婚、息子・智也をもうけていた。過去を恐れ周囲の視線に怯えながら松本で暮らす彼女は、ある日、公園でマスクとサングラスをかけた女が智也に近づくのを目撃し、智也を抱えて交番へ駆け込んだ。刑法第三十九条で人生が大きく変わった2人が交錯し、新たな事件が起きる――。
心理サスペンスであり、刑法第三十九条に人生を翻弄された人たちが新たな一歩を踏み出すまでを描いた人間ドラマ。
被害者・加害者双方の視点から描かれる地味な物語だが、飽きることなく最後まで読ませるのは流石。テーマがテーマだけに結論はでないが、いろいろと考えさせられた。

無罪 (光文社文庫)

無罪 (光文社文庫)