深谷忠記『横浜・長崎殺人ライン』(光文社文庫)★★★

十月二十九日の午後十時すぎ、横浜・港の見える丘公園で男の絞殺死体が発見された。二日後、被害者は陽光電器産業のエリート社員・久保木裕一と判明する。神奈川県警捜査一課の薬師寺警部補は久保木のライバル社員・谷島俊之に疑惑の目を向けるが、彼には上司の小幡洋樹の家で徹夜で論文を仕上げていたという鉄壁のアリバイがあった。十一月四日、久保木の葬儀に参列するため関係者たちは長崎に飛んだ。その夜、「ホテル・ニュー長崎」で第二の殺人が起きる――。
黒江壮&笹谷美緒シリーズ第8作で、「殺人ライン」シリーズ第3作。
時間誤認トリック一本で勝負した、深谷版「五つの時計」と言うべき作品。鮎川哲也の名作「五つの時計」では小道具と手数の多さで〝時間の魔術〟を実現させたが、本作は超シンプルなトリック(サブトリックを含めて深谷らしさ全開)で実現させているのは評価できる。また、アリバイ工作が諸刃の剣になるという本シリーズではお馴染みの展開も綺麗に決まっていて良い。
本作の犯人は卑屈な人間で、あるキャラクターが不憫でならなかった。