深谷忠記『0.096逆転の殺人』(光文社文庫)★★☆

毛布に包まれ性器がえぐり取られた全裸の男性の死体が江戸川に浮かんでいた。被害者はT大学大学院修士課程二年生・久保寺喬と判明する。その夜、バー「フラミンゴ」のママ兼オーナー・太田美那子のマンションに切断された彼の性器が送られてきた。二人に肉体関係があったことが分かるが、有力な容疑者が浮上せず捜査は暗礁に乗り上げる。
三ヶ月後、久保寺が住んでいたアパートの部屋で、元喫茶店経営者・郷田和義が死んでいるのが発見された。部屋は密室でガスが充満していたことから自殺と思われたが、久保寺の妹の早苗から得た情報から死んだ二人の接点が見つかり、殺人と断定される。勝部長刑事は、アパートのもう一人の住人の門脇揚一に二人を殺す動機があることを掴むが――。
1986年4月刊行の第5長編で、「逆転」シリーズ第1弾。
(探偵役の都合でだが)タイムリミットを設け、アリバイトリックと動機の謎でひっぱり、猟奇事件なのに地味さは拭えないものの前作『西多摩殺人事件(成田・青梅殺人ライン)』と比べると飽きることなく最後まで読める(因みに、タイトルにある「0.096」はトリックに絡んだ数字である)。また、黒江壮と笹谷美緒のプロトタイプといえる探偵役とヒロインの恋心も丁度いい塩梅で描かれている所に好感が持てる。
密室トリックは酷いが、アリバイトリックは盲点を突いたものでそこそこ面白いと思う。なお、動機は評価保留ということで……。
深谷らしいストリー構成なので、ファンは読んでみるといいかもしれない。
(再読)

0.096逆転の殺人 (光文社文庫)

0.096逆転の殺人 (光文社文庫)

  • 作者:深谷 忠記
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 1990/02
  • メディア: 文庫