深谷忠記『南紀・伊豆Sの逆転』(光文社文庫)★★★

南紀・白浜の「白浜エネルギーランド」で三宅今日子が毒殺された。ハンドバッグにはワープロで書かれた〝T・H〟と名乗る人物からの呼び出しの手紙があった。翌日、潮岬で波多野敬の服毒死体が発見され、〈白浜の殺人は自分がやった……〉と書かれた遺書と思われるメモを所持していた。二人は不倫の関係で、関係の清算が動機と思われたが、目撃証言から彼は犯人でないことが分かり捜査は難航する。
数週間後、伊豆・下田の下田加茂神社の境内で雨宮友美の絞殺死体が発見された。神社で暮らすホームレスの証言から犯人は二、三十代の男と判明する。
和歌山県警捜査一課の園部警部補の捜査で三人が五年前の事件で繋がり、容疑者として壮の友人のトラベル・ライター世良俊一郎が浮かぶが、彼には完璧なアリバイがあった――。
〈壮&美緒シリーズ〉第5作にして、「逆転」シリーズ第4弾。
壮にとって重い事件であり、「逆転」シリーズとしては機械トリックを排して勝負した作品。
場所錯誤トリックをメインに据えていて、盲点を突いているとはいえかなり無茶をしている。タイトルにある「S」の意味は壮の謎解きで明かされるのだが、気付く人はいるのか?(笑)
佳作とまではいかないが、良作です。