オリヴァー・ハリス『バッドタイム・ブルース』(ハヤカワ・ミステリ文庫)★★★☆

原題『The Hollow Man』、Oliver Harris(2011年)

数年前に中断(つまらなかったわけではなく、その時の自分と波長が合わなかった)した作品に再挑戦しました。

ニック・ベルシーは優秀な刑事だがギャンブルにはまり家を失ったうえ所持金は底をつき、ホームレス生活をおくる中年男。ロシア人の富豪アレックス・デヴェルーが行方不明との通報を受け担当になった彼は、ちゃっかり鍵を手に入れデヴェルーの家で生活するようになる。隠し財産の存在を知ったベルシーは人生をリセットするため横領を計画し、動き出す。そんな中、デヴェルーの秘書をしていた女子高生が殺され、ベルシーの周囲に怪しい人物たちがうろつき始める。はたしてベルシーの計画は成功するのか――。
オリヴァー・ハリスのデビュー作で、ハムステッド署犯罪捜査課の刑事ニック・ベルシーを主人公にしたシリーズ第1作(邦訳は本作のみ)。
冒頭の初登場シーンで詰んでいることを見せ、どういう人間なのかを行動で分からせる鮮やかな書きぶりが見事で、生きるために悪事を重ねる〝正義〟の刑事ニック・ベルシーを魅力的に描くことに成功している(ホント、憎めない奴なんだ)。
銃撃事件が起きる190ページ辺りまでは我慢(富豪の死体を見つけたりするので、つまらないわけではない)だが、それ以降は先の読めない展開続きでグイグイ読ませる。特に、タイムリミットへ向けて加速するラスト60ページは一気読み必至だ。
事件の転がし方が上手く、陰に隠れていた人物の意外性(思わぬ所に伏線が!)も十分で、上々のデビュー作。面白かった。最初に読んだ時、中断せずに最後まで読んでいたらバンバン布教したのになぁ……と今更ながらに後悔しています。
ベルシーの生きざまをもっと読みたいけど第2作・第3作の邦訳は絶望的なので、原書を読むしかないか……。
ちなみに、装画は村上かつみさん(〈フロスト警部〉シリーズの装画を担当された方)なのだが、読了後に見直すと「このシーンを切り取ったの!?」となること間違いなし。

余談その1:〈刑事ニック・ベルシー〉シリーズ、第2作『Deep Shelter』は女性の失踪に巻き込まれたベルシーが第一容疑者になるのを避けるために捜査を開始する話、第3作『The House of Fame』は刑事生活の危機を迎えつつ子供の失踪事件を捜査する過程でベルシーがショー・ビジネスの世界に潜入する話らしい。
余談その2:Twitterでオリヴァー・ハリスに感想を送ったら、日本語入りで返信をくれた。いい人だ。
(12月16日読了)

The Hollow Man: Nick Belsey Book 1

The Hollow Man: Nick Belsey Book 1

  • 作者:Harris, Oliver
  • 発売日: 2011/05/05
  • メディア: ペーパーバック