若桜木虔『寝台特急出雲・大井川の殺人交差』(ジョイ・ノベルス)★★

午前四時、上り寝台特急《出雲八号》が金谷トンネルを出てすぐに投身自殺に遭遇し、急停車した。個室寝台で熟睡していた雑誌記者の西東南はベッドから床に転落して目覚め、隣の個室寝台の異変に気付いた彼女は車掌に話してドアを開けてもらうと、ベッドの上で男性が鎌で首の頸動脈を切られて殺されていた。「二重殺人ではないか?」という彼女の直感は的中し、金谷トンネル上の国道に放置されていた車の中から殺人の証拠が発見される。容疑者として大学生の兄妹が浮上するが、二人のアリバイは完璧で――。
事件記者・西東南シリーズ第5作で、村嶋なつみ(電子書籍では「奈津美」)刑事が初登場。
事件のシチュエーションは良いし、メイントリックは有名なパターンのものだが大胆な使い方でそこそこ良く(見破るヒントは作中の地図に書かれてあり、フェアプレイに拘っている点は評価できる)、そんなに酷い出来ではない。
ダメなのは、鷹見沢兄妹に注目する過程がご都合主義的すぎる所(あれはプロファイリングとは言えない)。詰め手も決定的な物とは言えず、モヤモヤする。章題・登場人物のネーミング・比喩表現のセンスのなさ、余計な記述や台詞の軽さもダメな所と言えるが、これらは我慢できるのでよし。
本作で許しがたいのは、クリスティ『オリエント急行の殺人』『ABC殺人事件』と草野唯雄『山口線〝貴婦人号〟』のネタバレをしていることで、他に書きようがあるのに工夫もせずにネタバレをしたのは責められるべきだろう。